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21話 和服バカ先輩

「見つけたよALIVEさん……!この女の人は『キャンセラー』だ!」


少女は、霊力を使った目前の幽霊ーーニール・クルーエルを観てニヤリと笑みを浮かべる。

そして……少女の雰囲気が変わった。

「ママ……!もうすぐ会いに行けるからね」



同時刻。繁華街。

人混みの中、少年はただ呆然と立ち尽くす。

夜空を見上げ、虚無感に苛まれていた。

ハハハ。笑えてきた。

泣けてきた。

そして人々の流れに押され、少年は人気のない狭い路地へと流される。

目の前の繁華街……流れゆく様々な人の顔。

少年は、無意識に独り言を吐きこぼすのだった。

「……無理ですよこんなの」

先程の怖い先輩からの一言が心に刺さる。


「ーー逃がすか……!セレラはドッペルゲンガーの方を追え!女の方は僕が行く!」


「そんなの……無理ですよ……!翔琉先輩……!」

頭を抱える少年ーー大空セレラ(おおぞらせれら)。

露草菜乃(つゆくさなの)を襲った敵の幽霊。その捕獲、撃退を一任され、追い掛けてきたのだが……

姿を変える霊力ーードッペルゲンガーのALIVEを、探し出す?この人混みの中で?相手が今どんな顔をして、どこに身を潜めたかをこの中から捜し出せだって?

「……砂漠で小さなダイヤを見つけろとか……太平洋に沈んだコンタクトレンズを探せとか……もはやそれに匹敵する難易度だと僕は思うよ」

けれど怖い先輩ーー藤崎翔琉(ふじさきかける)先輩は、失敗を許さない。特に幽霊の事になると、あの人は目の色を変える。

殺される!

そう思ってセレラは、信頼する相手に助けを求める事にした。

翔琉の事で困った時、迷わすある人物に電話をかける事にしているのだ。

プルルルルル……ガチャ。

「もしもし!秋花先輩!助けてください!」

セレラの第一声が『助けてください』だった。

向こうの文香先輩ことーー桜井秋花(さくらいしゅうか)

組織アレストの、マネージャーのような存在。

「セレラさん!?どうしたんですか!?何かありましたか!?」

学年2つ年上の高学年だが、どんな相手でも丁寧な敬語を忘れない。

セレラは、おどおどと恐る恐る尋ねる。それは真っ先に重要な確認事項。

「あの秋花先輩……そちらに翔琉先輩は戻ってますか?」

「翔琉様?いえ、まだこちらには……女の子の幽霊を追いかけて行ったきりです。そちらはどうですか?ALIVEとかいう幽霊の行方は?」

「……そ、それが……」

言いにくそうにしていたが、逆にそれが任務遂行困難を悟る。

「そうですか……相手はドッペルゲンガーですものね。1度退いて作戦を練り直しましょうか」

秋花は明るくそう言った。怒られるかと思っていたが、流石は秋花先輩だった。セレラは安堵の息をなでおろすように、大きく息を吐いて力をグッと抜く。

「本当にすいません先輩。一度帰還します。ですが何時変身してるドッペルゲンガーに襲われるか分かりませんので、人混みを避けたルートで先輩方と合流します」

「あ!セレラさん!そういえば貴方に、端末を渡し忘れていましたね!」

「ん?端末?といいますと?」

聞き覚えのない単語に、セレラは首を傾げて聞き返す。

「はい端末です!周辺で発動された霊力を探知できる装置です!セレラさんはアレストに加入したばかりなので、渡し忘れていたんです!本当にすいません!」

(な!それがあればドッペルゲンガーを捕まえられたじゃないか!)

秋花はなんでもソツなくこなす完璧少女なのだが、時々物忘れなど起こし、抜けている一面を見せるのだ。

「……わかりましたよ。帰ったら受取ります」

そう言い残し、電話を切ってある男に電話をかける。

本来こちらに合流する筈だった、チャランポランな適当男にだ。

翔琉は単独で少女の幽霊を、ドッペルゲンガーの幽霊にはセレラともう一人で追う手筈だったのだが……


ーーおかけになった電話は、電波の届かない場所におられるか、電源が入っていないためーー

お決まりの、電源を切って行方をくらませるあの男。

セレラは怒りで電話を投げつけたい一心だったがそれを抑え、空に向かって大声で叫ぶのだった。


「何やってんですかね!この忙しい時にあの先輩は!こんの和服バカ先輩がー!」



同時刻。街外れのマンション通り。

都心部とは離れ、この時間にもなると人気が少ない。


「ありがとうございましたー」と元気な挨拶が、とある店のドアが開くと同時に外に出た。

「これこれこれです。これが食べたかったんですよ」

ニヤニヤと浴衣姿の青年が、紙袋を抱えて店を出た。

取り出したのは、この店新商品のハンバーガー。

「いやーやっぱり、任務をサボって食べるハンバーガーは格別ですね」

パクッ。モグモグモグ……

これがこの浴衣姿の青年ーー室槙(むろまき)の素行。

そして何気なく、持っていた霊力探知端末を取り出した。これを片手に持っているだけで、仕事しています感を醸し出したつもりでいられるのだ。

「確か……これを起動させて歩いているだけで、霊力が探知されたら光って知らせてくれるんでしたよね?本当でしょうかね。なにしろ作ったのがあの文香さんなんですから」

ケラケラと笑い、歩きながらハンバーガーを平らげる。

そして少し歩いたところでーー

ピコーンピコーン。

端末が光り輝くのだった。


室槙は上を見上げ、端末を上のーーとあるマンションの上階部に向けると光が濃くなるのを確認した。

間違いない。このマンションの上に幽霊がいる……

室槙は大きなため息を吐きこぼし、がっかりと肩を落とす。


「こんな偶然ありますか?なんですか神様嫌がらせですか?せっかくサボれると思ったところなのにねぇ」

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