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19話 幽霊恐怖症のリハビリ方法

時は進み、友人の女の子が危機にあるとも知らずに、俺は普段と変わらない日常の中にいた。

これは友人の女の子ーー露草菜乃(つゆくさなの)が、都市伝説に巻き込まれてから1時間くらい経過していた。

俺はその事を知らない。


日が暮れ、間もなく日付が変わろうとしていた。

俺は自宅マンションでソファーに深く腰掛け、炭酸飲料のペットボトルを強く握り締めながら、目を背けられない恐怖に釘付けになっている。

不気味な雰囲気を煽るようなBGMと、闇に包まれた世界観。

そして次の瞬間、画面に首の無い女性が飛び出して来たと同時に、俺の感情が爆発した。

「うぎゃぁぁぁぁぁ!」

部屋中に響き渡る悲鳴に、後ろにいた少女は呆れて台詞を吐きこぼす。

「はぁ、うるさいよ。これで何回目なの渉?」

少女はそう言いながら、俺が見ていたTVの電源を切る。そしてリモコンのそばに置いてあった、DVDのパッケージを持ち上げた。

「ふーん。今度は相手を呪い殺す幽霊物のホラー映画か……ってものすごくベタなタイプ」

そう。俺は高校2年生にもなって、ホラー映画で悲鳴を上げていたのだ。

「うるさいな!ベタでも何でも、怖いものは怖いんだよ!それにベタって事は、それだけ世の中に通用する怖さだってことだ」

「だからって何でそんなに怖がるの?最近ちょっと克服出来てなかった?全く、妹さんが幽霊に殺されて、そのせいで幽霊恐怖症になっちゃうなんて……そんな姿を天国の妹ちゃんが見たらガッカリするよ?っていうか、怖いなら観なきゃいいのにホラー映画。ボクなら観ない」

一人称『ボク』の少女ーー長い赤髪が特徴的で、見た目は中学生くらいの小さな少女だが、歳は俺と同い年らしいから驚きだ。

……驚いているのはそれだけではない。

「幽霊克服しようと頑張ってるんだよ!俺はいつか必ず妹の仇を取るんだからな!ってか、何でお前は怖くないんだよ?自分を殺した奴を呪い殺す……考えただけでもゾッとするだろ?ニール・クルーエル」

ニール・クルーエルーー赤髪少女の名前。母がアイルランド人っていう話だ。

そのせいで、日本じゃ珍しい地毛が赤色なのだ。

「呪い殺す幽霊のテーマの映画なんてありがちすぎて……それに、相手を呪うほど恨むって事は、それだけその幽霊さんもきっと辛い過去があったのよ」

「幽霊の気持ちを分かっているような口調だよな相変わらず……あ、ニールは幽霊だった」

俺の台詞に、ニールはクスッと笑って頷くのだった。

それは普段から聞き慣れた、ニールの返し文句。


「ボクもう幽霊なんだってば。死んでるのよ?何度も言わせないで」


「はいはい分かってますよー。お前は去年交通事故で亡くなってる。ちゃんとお墓行って確認してきたから間違いないな。ごめん……幽霊の前でホラー映画なんか観て」

「別にいいよ。ボク気にしてないし」

「……けどさ。ニールは何ていうか、怖くないんだよな。不思議と怖くない。それに、妹を殺した幽霊とは違うから」

俺が憎んでいるのは、他人を殺す幽霊の事で……

ニールはそいつらとは違うから。

「ありがとうね渉。まぁ確かに?こんな可愛い美少女幽霊を怖がれっていう方が無理な話かもしれないね」

見た目中学生の女の子が、ドヤ顔でそう言った。

「それはないから」

俺は冷めた口調で言い返し、話をそらすように再びTVの電源を入れる。

次の瞬間、不気味な女の唸り声が鳴り響く。

うおおおおおお!

バタン!

一目で幽霊とわかるそれが、急に画面いっぱいに現れた。

「うぎゃあああああ!何てタイミング!?」

俺は思わずソファーごと後ろへ倒れ込んだ。

その様子を側で見ていたニールは、ため息を吐きこぼす。

「ボクに適当に返事したからだよ。渉のバーカ。もうボクお風呂行ってくる」

そう言って幽霊の少女は去っていった。

……幽霊なのにお風呂入るんだな。

……ってか普通に俺、幽霊と同居してるんだよな。

俺はゆっくり起き上がり、TVの電源を再び消す。幽霊恐怖症のリハビリは、今日はここまでだ。

その時ーー

プルルルルルル……

家の固定電話が鳴り響く。

こんな遅い時間に、誰が何のようだ?

俺は首を傾げながら、電信音の元へと向かった。

「……はい。もしもし、犬神ですけど」

俺は少し面倒に感じながら、相手の返事を待つ。

それは、誰も予想だに出来ない電話。

「……今……貴方の、後ろにいるの……」

消えそうな、幼い少女の声。

……は?

……ちょっと待て。

何処かで聞いた展開。

……ああ、杁唖が学校で話してたやつか。

後ろに振り向いたらそこにいるって奴か?ありえないありえない。

俺は冷めた口調で、冷静に、このいたずら電話を始末しようと言い返す。

「残念だったな。後ろは壁だ」

電話を始める前から、俺は壁に寄りかかっていた。後ろに人が立ち入る隙間はない。

……はずだった。

ドスッ。

突如何かが心臓部に突き刺さったような感覚が俺を襲い、それが背後からナイフを刺された事に気づいた時には、俺の意識が崩れ落ちる。

後ろは……壁のはず、なのに……


「後ろに……いるの……!」

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