17話 杁唖と菜乃と昼休み
「渉せんぱーい!会いたかったー!」
ドタドタドタ!
背後から、声の高い少年が俺目掛けて急接近。
オレが声に気づいて振り返る頃には、自分を先輩と呼ぶ少年が俺に体重をかけて押し倒す。
痛っ!こんな事をする人物に、俺は心当たりがあり、そもそもこんな登場する人物は1人しかいない。
「セレラ!大空セレラ!毎回毎回何なんだよお前は!急に飛びかかってるくなよ!」
「だって渉先輩……最近遊んでくれないじゃないですか?」
小柄な後輩少年ーー大空セレラ。女の子とよく間違われる程整った顔立ちで、以前不良に絡まれていた所を助けたことがある。
それからだ。セレラは俺に懐くようになり、こうして時間を見つけては会いに来る。
けどタイミングよく、いつも俺ひとりの時に現れる。
そしてそのセレラが今、何故か涙声になって俺を見る。
すると周りの視線と、ヒソヒソと話す陰口が聴こえてきた。
「犬神が後輩君を泣かせてる……」
「あんな可愛い顔をしたイケメンを泣かせた……許せん」
と、どれも嫌悪感を漂わせていた。
このままじゃ、変な誤解を学校中に広めかねない。
俺はすぐに起き上がり、とにかく笑って誤魔化した。
「こ、今度なセレラ。最近ちょっと忙しくて。ほんとごめんな」
そう言い残し、逃げるようにその場を後にした。
一人取り残されたセレラは、俺が見えなくなったところでフッと表情を無に戻す。
「……犬神渉、先輩……翔琉先輩の元親友さん。翔琉先輩には悪いけど、僕ちょっとあの人の事が気に入っちゃったんで。もうしばらく黙っていましょうか……教えたら渉先輩、きっと殺されちゃうでしょうから」
※
数分後。購買の死闘をくぐり抜けた俺と杁唖は、それぞれパンを抱えてフラフラと廊下を歩いていた。
なんとか昼食を確保出来たものの、混雑する生徒達に殴られ蹴られの繰り返し。身体中あちこち痣だらけである。
「……もう無理。しんどいわ購買。杁唖はコロッケパン買えたか?」
「……いや、やっと手に取ったと思ったらピーナッツパンだった」
「……お前嫌いな食べ物なんだったけ?」
「ピーナッツ」
肩を落とす杁唖に、俺は仕方なく互いのパンを交換することにした。
ピーナッツパンが食べたい訳では無いが、杁唖が食べられないんじゃしょうがない。
杁唖は礼を言って、俺のフランスパンをため息と同時に受け取った。俺もこのパンが欲しくて買った訳では無い。
「なんでフランスパンなんか売ってんの?普通これ単体で買って食べないから。せめてバターか何かが欲しい」
杁唖がブツブツと言いながら、渋々と階段を上る。
そして最後まで上り、屋上へと続く扉を開けた。
そこには第一声、ご機嫌斜めの少女の文句だった。
「遅いよ!何してたの二人共!?」
俺達の苦労も知らないで……
言い返す元気もない。
「遅くなって悪かった。俺も杁唖も反省してる。ごめんよ菜乃」
菜乃はそんな疲れきった俺達を見て、悟ってか文句を言うのを止める。
「ん……そんなに大変だったのパン競争?お、お疲れ様」
とりあえず俺達は、それぞれ3人向かい合って座り込む。本日は雲一つない晴天で、風が透き通ってて快適を感じていた。
梅雨も終わり、俺達の高校2年の夏が始まるのだ。今年こそは、悠里が俺に伝えたかった願いーーその真意が見つかるだろうか……そんな事を考えながら、俺はピーナッツパンを齧る。
するとそこで、杁唖が思いついたように立ち上がる。
「そうだ!聞いたか!?今朝クラスの連中が話してた都市伝説!」
「いきなりなんだよ?都市伝説?この学校の人らみんな好きだねぇ……」
「俺も好きだそ都市伝説!実際に襲われた生徒もいるらしいから、信ぴょう性アリだ!」
目をキラキラと輝かせながら、興奮してか手を振り回しながら話し出す。
そんな杁唖を、菜乃が冷めた口調で注意する。
「フランスパン振り回すの止めなさい杁唖」
杁唖は言われて大人しく、邪魔なフランスパンを菜乃預ける。
「今回ばかりはガチらしい!いいか!?携帯端末を持ってる俺達全員も、いつその都市伝説に襲われるか分からないーー」




