14話 ALIVE
「トカゲみたいですね……」
隣で翔琉も吐き捨てる。
「いや、あれはゾウリムシに近い……」
「テメェら!爬虫類と微生物で例えんな!!」
当然怒る幽霊を、同じ姿の少女が落ちつかせる。
「落ち着いて。此処は1度退かないと……!持久戦は、2人しかいない私達の方が不利だよ!」
「あぁーっ!クソっ!人間相手に逃げなきゃ行けないのかよ!!けど、仕方ねぇーー」
2つの同じ容姿でも、口調で違いがはっきりとわかる。
荒いほうが偽者だ。偽者が両手をバッと広げ、空を仰ぎ見るようにして叫ぶ。
「ーー覚えておけクソ人間共!俺様の名は……!ALIVE!」
自身をALIVEと急に名乗りを上げた。
当然本名ではないその名に、翔琉達は聞き覚えがあった。
「ALIVE……だと……!?」
ALIVEーー街を恐怖に叩きつけた連続殺人鬼の名称。
証拠や目撃証言も何も無い不可解な連続事件だが、その事件は全て奇妙な共通点があるのだ。
それは、被害者の遺体の側に、必ず『ALIVE』の名が残されている事。
アスファルトに血で書かれ、ある時は遺体の腹部に文字が彫られていた。
その『ALIVE』がまさか幽霊で、それに『ドッペルゲンガー』の霊力を持ち合わせているとは……
姿を変えられるのだ。道理で警察が手掛かりすら掴めていないはずだ。
「そう……!俺様が『ALIVE』……!『ALIVE』とはすなわち!『生きる』という意味!俺様はまだ生きる!死んでいいはずが無い!」
その叫びを聴いていた翔琉が、舌を鳴らして言い返す。
「生きるだと……!?お前らはもう死んでるんだ!人間みたいな事言うなよ……!この死にぞこない……!」
死にぞこないーーそれを言われた、隣の少女と同じ姿のALIVEは、怒りを通り越して狂ったように笑う。
「……もううぜぇよ手前ら……!単刀直入に聞くぜ……?『キャンセラー』は何処だ!?」
それは余りに唐突な問いだった。
けれど翔琉は、冷めた表情で言い返す。
「聞かれて答えるとでも思ったのか……?どうせお前らは成仏するんだ。とっとと墓に帰っておねんねしてろ」
「テメェは俺様が必ず殺してやるからな!!次会うときは血祭りをあげてやる!」
そう言い残し、幽霊2人は走り去る。そして直ぐに二手に別れ、それぞれ別の路地へと逃げ去った。
「逃がすか……!セレラはドッペルゲンガーの方を追え!女の方は僕が行く!」
「は、はい!翔琉先輩もご武運を!」
一足先に駆け出した翔琉と離れ、セレラは言われた通りドッペルゲンガーを追いかける。路地を駆け抜け、様々な角を曲がり、右へ左へ。
そして、セレラは街の大通りへとたどり着いた。そこには人。人。人だかり。そこでとても大事なーー大変な事に気がつくのだった。
セレラは立ち止まり、唖然する。
だってそうだろ。木を隠すなら森の中であるのと同じ事。
「一体どうやって、人混みの中でドッペルゲンガーを探し出せばいいんですか!?」
藤崎翔琉先輩に怒られる……そう思うともう笑うしかない。
※
露草菜乃のマンション。
怖い思いを味わった菜乃を、秋花が優しく慰める。
敵が、何を目的で菜乃を狙ったのか不明な以上、また再び襲ってくる危険がある。此処には置いておけない。
「大丈夫ですよ菜乃。貴女は私達が護ります。必ず護りますよ。翔琉様達は強いんです。私の家へ行きましょう」
「……ありがとうございます。お世話になります秋花先輩」
秋花はニコッと微笑み、テーブルの上に置いてあった冷めたアップルパイが目に止まった。
楽しい話題へと変え、菜乃の恐怖心が少しでも和らぐようにと。
「私の家で、アップルパイ焼き直ししましょう。アップルパイには、温かいハーブティーがよく合うんです」
(そう……菜乃は必ず護ってみせる……!だからこそ、敵より先に『犬神渉』という人を捕まえないと…!)
犬神私という人物は藤崎翔琉のーー




