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天変地異

 地下からの脱出口となったのは今にも崩れ落ちそうな古い祠だった。


 私の肩から突然地面に飛び降りたドラゴンを追いかけて、這いつくばらなければ通れないような狭い通路の先に、もしかしたらと漏れ出た光りを見つけて辿ると、頭上の土壁から光が漏れていた。


 どうやら土壁の割れ目から光が漏れているようなので、乾いた土壁を両手でベリベリと剥がしていったのだ。


 土壁の先には木板が並べられていたため、シルバを鞘ごと木板に叩きつけるようにして衝撃を与えれば、腐蝕のためかすんなりと外へと這い出ることができた。


 ドラゴンよありがとう。あそこで君が道を示してくれなければ私はまだ地下をさまよっていたことだろう。


 薄暗い祠の内部はもう何年も掃除すらされていないのか埃が積もり、祠を破壊すると言う罰当たりな事をしてしまったけれど、後日きちんと祠を浄めに来ますと誓いをたてる意味で、祠の前で深く二回ほどおじぎをして手のひらを二回叩いた後、再度祠へ深く頭を下げた。


 日本の神社方式の『二礼二拍手一礼』は双太陽神教の拝礼作法ではないけれど、この祠が双太陽神教の物であるかもわからないため、あえて八百万の神様を奉る日本式の拝礼をおこなったのだ。


 祠を出て星の明かりを見上げながら、学園の物だろう建物に近付けば、喧騒とあちらこちらに焚かれた篝火と獣脂を含ませた布を棒に巻き付けた松明を手に、武装した兵士らしき沢山の人が走り回って居るようだ。


 これって私を捜しているのかな?それともクーデターか何か?


 前者ならすぐにでも出ていった方が良いんだけど、後者だと出ていくのはまずい。

 

「おいっ!レイナス王国の王太子殿下はまだみつからんのか!」


「もっ、申し訳ありません。現在総力を上げて捜索しておりますがいまだに報告が上がっておりません!」


 私の捜索の指揮を飛ばしているらしい壮年の騎士から見付からないように姿を隠して様子を見ていれば、聞きなれたら声がこちらへ向かって近付いてくる。


「殿下~! ご飯ですよ~! 今日は殿下の好きな鶏肉のハーブ蒸しですよー。 早く出てきてくださーい」


 鬼気迫る騎士たちとは明らかに温度差があるロンダークさんの声に、脱力した。


 鶏肉のハーブ蒸し……、美味しそうだね。緊張のために家出していた食欲が、どうやら帰ってきたようで途端にグウゥーと低い音を腹部が奏でた。


「ロンダーク!」


 身を隠すのをやめて、篝火の下へ踏み出し、ロンダークさんに声をかける。


「シオル殿下! 一体こんな時間までどこをほっつき歩いて来たんですか」


 別に好きでほっつき歩いていた訳ではないんだけどなぁ。


「校内で地面が崩落してね。脱出に今までかかったんだ」


 崩落の言葉にそれまで飄々としていたロンダークの笑顔に青筋が……。


 両手の人差し指を両耳の穴を塞ぐように突っ込む。


「だーんーちょーうーどーのー!」  


 耳を保護しているにも関わらずロンダークの低い怒声が聞こえてくる。


「ロンダーク殿、どうかされたか? ……これは! シオル殿下ご無事でしたか!」


 良く見れば隊長さんは先日王城でおば……ドラグーン王国の王妃陛下に拝謁した時にお会いした騎士団長殿だった。


「団長殿、殿下は学園内で地面の崩落に巻き込まれたそうです。すぐに捜索を打ちきり二次被害者が出ていないかの確認をお願いします」


 たまたま部分的に老朽化した崩落に巻き込まれただけなら良いが、もし学園内にある古代遺跡全体の老朽化が危険なレベルにまで進んでいるのなら、学園が遺跡の大規模崩落に巻き込まれるだろう。


 もしくは地下で遭遇した大蛇が地表へと出れる穴があく……。


「団長殿、学園の地下にある古代遺跡の存在をごぞんじですか?」


「はい殿下。 私もこの学園の卒業生ですので存じております」


 問いかけにはっきりと頷かれる騎士団長。


「学園の裏手の森に私が遺跡へ落ちた穴があるはずです。日の出まで決して近付かないように。遺跡の老朽化が激しく、地上へ戻るまでに落盤が激しかったのでね」

  

「わかりました」


「それから遺跡の調査を願いたい。遺跡全体の規模がどれ程かはわからないが、老朽化が深刻な状況にあれば、いつ大規模な崩落が起きてもおかしくはない」


 地上へ戻るまでの道のりしか知り得ないが、地下は蟻の巣のように横に広く地中深くまで広がっているようだった。


 もし大きな地震が来れば、仮に遺跡が王都に勝る規模だった場合、一度で大陸屈指の大国であるドラグーン王国の中枢が消滅する。


 ……いや、地震に限らず大雨でも崩落するだろう。


 それはドラグーン王国を中心に平和が保たれている周辺の小国、レイナス王国にとっては一大事だ。


「……私はレイナス王国から出てきたばかりでドラグーン王国の歴史に明るくないのだが、この国は……」


 ズズズ……と足元から響く地響きと小さな縦揺れ。前世の記憶だと震度三程度だろう直下型地震。


「地震!?」 


「えぇ、最近多いですね。ドラグーン王国では五年に一度、我が国を守る土地神である国鳥を讃える式典が行われます」


 ドラグーン王国の国旗は双頭の鷹。国鳥を模したものだったのだろう。


「国鳥の代替わりが三十年程で行われ、代替わりが近付くと大地が揺れることがあるのですが……おかしいですね先の代替わりから十年程で代替わりするにはまだ早いような……」


 冷や汗が背中を伝う。本来であれば国鳥の代替わりに合わせて一定の周期で発生する筈の地震、地下の劣化した古代遺跡、襲ってきた大蛇、そして肩にのったままのドラゴン……ドラゴンの卵があった場所に無惨な姿の巨大な鳥の亡骸。


「だっ、団長殿。すぐに国王陛下にお会いできますか?」

  

 嫌な予感が強くなる。


「えぇ、シオル殿下であれば可能かと、うおっ!また地震が……」


 地響きと揺れに小さな悲鳴が上がる。


「くそっ! 拝謁する時間さえないか、団長殿! 私は地下で国鳥らしき巨大な鳥の遺骸と大蛇を見た。もし地震が国鳥の死と関係があるならこの地震はこれからどんどん強くなる。陛下にできる限り早く王都から脱出を! それから市民の避難を進言してください」


 時間がない。 急がないと!


「わかりました。 しかしシオル殿下は?」


「私は大丈夫です。 ロンダークも居ますし、ここに残り学園内の生徒を避難させます」


「わかりました。シオル殿下に双太陽神の加護があらんことを」


「団長に双太陽神の加護があらんことを」


 かるく頭を下げ走り去る団長殿と他の騎士を見送る。


「と、言うわけだ。ロンダーク頼りにしてるよ」


「はぁ、仰せのままに」


 まずは我が友人のアールベルトを捕まえないとな。



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