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この学園、実は単位制だったらしいっす。

 壇上に上がったアールベルトの挨拶は素晴らしく、遠目に在校生らしい女学生があちらこちらで惚けたような顔をしてアールベルトの挨拶を聞いている。


 私はと言えば、はっきり言おう挨拶の“あ”の字も考えてません!


 この土壇場で小難しい挨拶分を考えるなんて私の頭じゃ無理。


 諦めの境地で黄昏れていたら、いつの間にやらアールベルトの挨拶が終わったらしく、本日の司会らしい教師に壇上へ上がるようにと促された。


 中身はこんな残念仕様だが、だからと言って仮にもドラグーン王妃の甥で、レイナス王国の王子だ、おどおどした姿は見せられない。


 背筋を伸ばし自然に優雅に見えるように壇上へ上がれば、会場内から一斉に視線の集中砲火を浴びる。


 私は会場内を一度見回すと、緊張に乱れた呼吸を整えるために深呼吸をした。


「レイナス王国から今年入学することになったシオル・レイナスだ。これから五年間この学園で皆と共に切磋琢磨し励みたいとおもう。共に学ぶ機会があれば気軽に声をかけてほしい。五年間よろしく頼む。以上!」


 挨拶を終えて皆に一礼し顔を上げると、皆ポカンとしてこちらを見ていた。


 あれ?私なんか変なこといったかな?


 先に挨拶を済ませたはずのアールベルトに視線を向ければ、なぜか身体を捻るようにして顔を背け、小刻みに震えながら悶え苦しんでいる。


 あん?私なんか変な事でも言ったかな?


「し、シオル殿下御挨拶ありがとうございました。それではドラグーン王国国王クラインセルト・ドラグーン陛下にお祝いのお言葉と乾杯の御挨拶をお願いいたします。」


 なんとか持ち直したらしい司会者が陛下に挨拶をと声をかけたので、私はさっさと舞台から離脱する。


「クラインセルト・ドラグーンである。この国の次世代を担う新入生諸君!入学おめでとう。先程の挨拶の通り今年度は国境を接するレイス・レイナス両国からの留学生が入学されることになった。」


 クラインセルト陛下は流石に声替わりしたようで昔よりも低く、それでいて魅力的な声色だった。


「本当は長い演説を用意してきたんだか、どうやら演説は長ければ良いと言うものではないと気が付いたので止める。」


 えっ、それって私が原因なんじゃと思い隣に立つアールベルトを見ると、しっかりと頷かれた。


 どうやら長い演説が主流だったらしい。それなら百二十語前後の挨拶は異例だろうさ。


 ここに来て先程のアールベルトの反応はあまりに短すぎる挨拶に笑いの壺を刺激してしまったのだとわかった。


「ささやかながら祝いの席を私から用意させてもらった。これから共に学ぶ者達と交流を深めてほしい。以上!乾杯!」


 クラインセルト陛下の声に皆が手に持ったグラスを両手で顔よりも高い位置に持ち上げた。


 主催者が飲み物に口を付けてから、私たちも用意された飲み物や食事に手を付けるのがマナーだったらしい。


 すまん、さっき普通に摘まみ食いしちゃったよ。 

 アールベルト、その顔は知っていて黙ってたな。


 さっきのどよめきはこの摘まみ食いが原因だったのね。そりゃぁ騒ぐわ。


 それから特に大きな問題もなく、入学式典は進んだ。


 本格的な授業が始まるのは明日だから皆思い思いに食事や会話を楽しんでいるようだ。


「所でアールベルト、私は先日急遽この学園へ行ってこいって身一つで国から出されたんだが、どんな学園なんだ?」


 私の言葉に両目を見開くと、呆れたような視線をくれた。


 視線は要らん、答えをプリーズ?


「セントライトリア学園は基本的に生徒が学びたいものを自主選択で決めて学ぶことが出来る学園だな。帝王学や武芸は勿論、社交やマナー、算術等の各種学術、などなどだな。宗教学として双太陽神教から講師を派遣してもらうこともあるようだ。」


 ふーん。色々と授業があるんだねぇ。葡萄の生搾りジュースを口に含む。


 うむ、美味だわ。


「そう言えば、希望する授業の選択カリキュラムの提出が明日になっているはずだがシオルはもう提出したのか?」


 ぶっ!はい!?聞いてませんよ!危うくジュースを吹き出しかけたじゃないですか!


「なにそれ聞いてない!今から考えるのかよ、アールベルト!頼む助けてくれ!この通り!」


「嫌ですよ!自分の授業計画立てるのにどれだけ苦労したと思ってるんですか。」


 基本的にどの授業を受けてもいいのだが、五年後に卒業するためには規定の単位数を獲得する必要があるようだ。


 どうやら授業によっては受講できる時間が重複していて受けられないし、継続して受講しなければ単位として認められずに、折角出席した授業が無駄になるらしい。


「ちなみに参考までに教えてほしいんだけど、なんの授業を取ったんだ?」


「帝王学と周辺諸国の語学、高等算術、経営学、武芸学とかまぁ色々かな。」


「そ、そうですか。」


 いまだに賑わいが続く会場の様子をぼんやりと見つめながら、私の心は今晩眠らずに作らなければならないだろう自分の教育カリキュラムのことで頭が一杯だった。

   


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