入学の式典。
さて王族専用の寮という名目の豪邸に私が入居した二日後に我が友レイス王国のツンデレ王子、アールベルト・ウィル・レイスがやって来た。
ここ数年ですっかり身長が伸びて金茶色の髪と、気の強そうな紺碧の瞳の美少年に進化をとげている。
勝手に自室を脱走したことがバレてロンダークさんに軟禁されていたのだが、アールベルトが入寮したため解放された。
だってさ、自国の王子が悪さしたからお仕置き中だなんて理由で顔合わせ出来ませんでしたとか外交的にもよろしくない。
そんなわけで入寮直後に顔を合わせ、簡単な挨拶を済ませたわけですが、その後はお互いに入学まで色々と忙しくて顔を合わせる事がなかった。
さてさてそんな背景もあり、あっと言う間に学園への入学式となったわけですが、私は今ロンダークさんに出掛けに拘束されております。
何故かって?学園指定の正装である軍服を思わせる制服は濃紺を基調とし、学年ごとに指定の色味が肩章と袖口、衿と裾には同色の縁取りに施されている。
袖口には学園の校章が彫り込まれた大きめのカフスがあしらわれ良いアクセントになっている。
ちなみに今年の新入学生は指定の色味がワインを思い起こす落ち着いた赤だ。
胸元はダブルボタンが四連に並び、その上からブレードの縁取の装飾を施した当て布をボタンで留める仕様になっている。
デザインが洗練されていてとても凛々しい。きっと二割増しで男前に見えることだろう。
だが中に着た詰め襟のシャツを着なれないせいか、きちんと留められた首があまりに苦しくてついつい首もとを弛めて着崩し、いつもの癖で愛剣を腰に佩いたところで首根っこをつかまれた。
「シオル様!貴方と言う方はなんとだらしない姿で登校なされようとされているのですか!もう少しご自分がレイナス王国の王太子だと言うご自覚をお持ちくださいませ!しかも学園内での武器の所持は原則禁止です!」
「え~!だってシルバがないと落ち着かないんだもん!」
あっ、シルバとは私の愛剣の名前ね。幼い頃は常に背負ってたんだけど、最近は身長が伸びたので普通に帯剣している。
寝るときも抱いて寝る相棒を置いていけってそんな無茶な!
「だもんじゃありません!いいですか・・・・・・クドクドクド。」
ううぅ、年々ロンダークが説教臭くて敵わない。そんなに怒らなくても良いじゃないか。
「聞いておられますかシオル殿下!」
「はーい。聞いてまーす。聞いてますよー。」
「はぁ・・・・・・まぁ良いでしょう。さぁ剣を渡して下さい。」
毅然とした態度で詰め寄るロンダークの両手に渋々と腰からシルバを外し手渡した。
うわぁ、なんかシルバの重みがない分体幹のバランスがおかしい。
その場で跳ねるといつもの倍位の高さまで飛び上がり危うく天井に頭を打ち付けそうになった。
「何をなさっていらっしゃるのですか!遊んで居られずに学園へ向かいませんと入学の式典に間に合いませんよ。」
私室から追い立てられるようにしてポポイッっと箱馬車に投げ込まれ、学園へと強制送還されました。
一つ言いたい。自国の王太子投げるか普通。
学園についてから案内されたのは広いダンスホールがある入学式の行われる会場だった。
あちらこちらに美しく盛り付けられた料理の数々が並べられていた。
学園は主にドラグーン王国の貴族の子息令嬢が在籍していて、会場内は在校生と新入生が入り交じっているようだった。
皆、私と同じ濃紺を基調とした軍服を思わせる揃いの制服に身を包んでいる。
女子生徒も男子の制服に似た意匠の軍服を模したワンピースを着こなしている。
ワンピースの後面はウエストが学年を示す色の紐で編み上げられウエストを体に沿って絞めあげているため身体の線が良く現れている。
制服着用時はコルセット等の身体の動きを妨げる補正下着の類いは原則禁止されているため、誤魔化しが効かない。
男性用の制服同様にダブルボタンで学年ごとに色味が異なるブレードの縁取の装飾を施した当て布を留める仕様になっている。
衿を飾る大きなのリボンはブレードの縁取りと同じ色味、同色の膝丈のスカートが禁欲的な色気を放つ素晴らしいデザインだった。
しかし踝まであるスカートが主流の中で膝丈のスカートが導入されているのは驚きだわ。
うむ、困ったことにコスプレの集団に見えるぞ。
「そんな不躾に女性に視線を送るものじゃないよ?」
「ん?あぁやっと着たか。」
背後から声を掛けられて振り向くと我が友アールベルト・ウィル・レイスが私の間合いに踏み込まない程度の距離を開けて立っていた。
「しかし似合うねぇ。とても同じ学生に見えないんだけど。」
「悪かったな、どうせ私は老け顔だよ。仕方がないだろう。私は陛下に似たんだよ。お前こそ女性ものでも行けるんじゃないか?」
「俺は母上似だからね。しかし女性の制服は流石に無理だ。あの制服はレディが着るから輝くんだよ。」
「まぁな、同感だわ。」
他愛ない話をしているうちに遠巻きに囲まれた。
「アールベルト、ほら見ろお前がきたから目立っちまった。」
「心外ですね。無駄に頭一つ分背が高い上にその真っ赤な頭が目立つだけでしょうに。」
そうなのだ。自分ではちびだと思っていた、会場入りして気が付いたのだがどうやら同学年の生徒と比べると私は背が高いらしい。
しかもドラグーン王国は金色や銀色の髪が一般的で私の赤い髪は目立つこと目立つこと。
一目で赤毛のミリアーナ妃の血縁者だと丸わかりですわ。
ただでさえ目立つのに隣にはキラキラの人好きする顔の美少年アールベルト王子が居るんだから二倍どころか悪目立ち二乗だろう。
近くのテーブルから果物を拝借して口にポイッと放り込めば、なぜか遠くで黄色い歓声が上がる。
アールベルトが動いても上がるから多分私達の行動が原因だろう。
落ち着かない、とにかく落ち着かない。
「殺気を放つの止めなよ、それにほらそろそろ始まる。」
アールベルトに促されて会場の上座を見れば、学園長らしいご老人と義理の叔父であるドラグーン王国の国王クラインセルト・ドラグーン陛下が貴賓席へ現れた。
名目上は学園内は貴賤を問わず、等しく勉学に勤しむって事になっているが、幼い頃からの刷り込みが出るため会場の上座に各国の王族や高位貴族の子息令嬢が、徐々に下座に向かって下級貴族や豪商の子供、特待生として平民の子供たちがいる。
なんでもロブルバーグ様が双太陽神教の教皇になってから、各国に呼び掛けて同意を得られた国でのみ市勢向けの簡単な読み書きと計算を教える学舎を教会に作ったらしい。
ドラグーン王国ではその中でも優秀な者を特待生として学園に入学させている。
レイナス王国は今だに学問は各家毎に家庭に教師を雇い教育するのが主流なので今回の留学で是非レイナス王国へ教育制度を持ち帰りたいと思っている。
「本日は我がドラグーン王国のセントライトリア学園への入学誠にお慶びいたします。」
本日の司会らしい男の話を聞いていれば、隣にいたアールベルトが上座に向かって移動をはじめた。
「どこに行くんだよ。」
「ん?あぁ言っていなかったか、王族がいる場合、新入生代表として挨拶を頼まれるんだよ。」
「ふーん。まぁ頑張れ!」
「はぁ、シオルもだぞ?」
は?そんな話一言も聞いてないぞ!
「聞いていなかったのか?ほら行くよ。」
ぐいぐいと引き摺られながら上座へと連行されていく。
嫌だ~!行きたくない!
「わ、私腹痛が!」
「我慢しろ。」
うわぁ、鬼だ!鬼がいる!
「自分だけ逃げられると思うなよ。」
上目使いに微笑まれたが、目が笑ってない。
助けてー!