はじめての友
「くぁー、良く寝たぁ!」
良く回らない頭で起き上がり身体を伸ばす、ベッドに寝かされていた為身体痛くない。
窓から差し込む太陽はもう高い位置まで昇っているようで随分と長時間眠りこけてしまっていたらしい。
泥々だった夜会服は清潔な寝間着に交換されてた。
泥々になった理由を思い出した途端に寒気が走った。
レイナスでは騎士に混じって鍛練に参加してはいたが、全て刃を潰した長剣を使っていた為に人を害した事はない。
何度か狩りにも駆り出されることはあったが、はじめこそ生き物を仕留めるには抵抗があった。
前世では専らスーパーで既に肉塊となった牛や豚、鶏肉なんかが当たりまえだったから、自分で鳥を肉塊に変える工程は想像すらしたことがなかった。
それでもわかっていたつもりでいたのだ。この城へ来る途中で狩りをするミリアーナ叔母様が生きた鳥の首を撥ね飛ばしたにも関わらず、首なし鳥がこちらに向かってくる様子は正直恐ろしかった。
でも、鳥獣と人では恐怖の度合いが違う。まざまざと思い出した肉を刺す凶器の感触をわすれたくて無意識に手を洗うように擦り合わせていた。
「おはようございます。お目覚めになられたのですね。シオル殿下、お体に不調はございませんでしょうか。」
「おはようございます?」
部屋に居たらしい女性が陶器に入った水を手渡してくれたので、ありがたく頂くことにした。
どうやら自覚していた以上に渇きを覚えていたらしい。あっと言う間に飲み干すと女性が追加を陶器に入れて渡してくれた。
三杯目の水を飲み干す頃にやっと恐怖感も落ち着いてきたような気がする。
「殿下は丸一日以上眠られていらっしゃったんですよ。」
レイスの王子様を救出してから丸一日?随分と長時間寝ていたものだ。
「直ぐにアルトバール陛下へシオル殿下がお目覚めになられたことをご報告して参ります。念のため直ぐに宮廷医を呼んで参ります。診察で問題がな居るのよければお食事をお運びいたしますので、お休みになっておまちください。」
「あっ、はい。おねがいします。」
にっこりと笑顔で告げた女性が出ていくのを見送って、いそいそと布団を被り直した。
さすがは大国のベッド、肌触りもスベスベで気持ちがいい。黒檀を使用した大きなベットにもこれでもかと部厚い敷布が引かれており寝具全てが極上品だとわかる。
「きゃぁ!お客様!?シオル殿下はまだお休みです!」
惰眠を貪るべく目を閉じたが、侍女だろう女性を振り切って飛び込んできた来客にあえなく強制終了になりました。
「おはよーぅ!」
バタン!と派手な音を響かせて部屋の中に乱入してきたアールベルトに右手をあげながら声を掛ける。
急いで来たのだろうアールベルトをベッドに起き上がり出迎えると、どこかほっとしたような顔をしたあと、私の方へ走り寄るなりポカリっと頭に拳骨を落としてきた。
「痛ったいわね、なにすんのよいきなり!暴力反対!」
「おはよーぅ!ってなんでそんな気の抜けた挨拶してんだよ!こっちは心配してたってのにぐぅぐぅ寝やがって!しかもわねってなんで女言葉なんだよ!?」
「うるさいなぁ、そう言うあんたも言葉使い悪くない!?キラキラ王子さまどこに行ったの!?」
「はぁ!?それこそどうでも良いだろうが。もしかして女言葉が素なのか?そうなのか!?」
「良くないわよ!別にどんな言葉を話そうとわたしの勝手でしょ!」
「あのぅー。」
「なに?「なんだよ?」」
全く引く気がないアールベルトと至近距離でにらみ合いをしていると、遠慮がちに声を掛けられた。
二人で振り向くと額に青筋を浮かべた赤鬼がいた。
「随分と仲良くなって良かったが、二人には聞きたいことが山のようにあるからなぁ。早く宮廷医に診て貰え。アールベルト殿下、貴方も犯人が捕まるまでは部屋で安静にしているようにと指示されたはずでは?また勝手に寝室を脱け出されましたね?父君が捜していましたよ?」
赤鬼さん。もとい赤い髪の父様がしっかり告げるとアールベルトはさぁっと血の気が引いたように意気消沈し、ベッド上からおりた。
渋々部屋の出口に向かって歩いていくアールベルトは扉の前で振り返るとこちらを見つめてきた。
「昨日は・・・・・・有り難う。あんたのお陰で助かった。御礼に友達になってやる。ありがたく思えよな?特別だからな!?」
耳元を真っ赤にして走り去るアールベルト、やば、なにあれ。ツンデレか?ツンデレなのか?
「良かったな。お前のはじめての友人だな?おめでとう。」
父様の大きくて固い手がくしゃりと頭を撫でてくれた。
「シオル、無事で良かった。もう無理はするんじゃないぞ?」
「ごめんなさい。気をつけます。」
抱き締められて背中を撫でられた。
「本当にお前は赤ん坊の時から目が離せないな。」
苦笑いを浮かべると、三度ほど扉を叩く音がして水をくれた女性に続いて宮廷医らしいお爺ちゃんが入ってきた。
「シオル、悪いところはこの際全て診て貰え。先生、お願いします。」
「はい。お任せを。」
私を宮廷医に預けるとアルトバール父様は部屋から出ていった。