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レッツ村ごと丸洗い!

 兵士さんが先触れにたったお陰か、村の広場にはこの村住人等が三十人ほど集められていた。


「皇太子妃殿下にはご機嫌麗しく、この度の御成婚まことにおめでとうございます。」


 深々地面に平伏してしまっている村人達をたたせると、村長らしき老人に紹介されました。


「始めまして!シオル・レイナスです。村長殿にお願いがありやって来ました。」


「始めましてシオル殿下。私はこの村で村長を勤めさせていただいているヤムと申します。」


「ヤム殿、実はシオル殿下が新たな農法をご教授下さるそうなんだよ。すまないがこの村でやってほしい。この村のこれから一年の生活は私が補償しよう。どうかな?」


「失敗した場合税を納めるどころか生活に事欠きます!」


「一年の間、この村の税を免除する予定だし。仮に作物が全滅しても私が食いつなげる分の食料は国庫から出してくるから心配ないよ。」

 

 渋る村長を説き伏せて、農地の半分に新農法を施すことになった。


 まぁ、比較するにはいいでしょう。わかりやすいし。


「えっと、まず女性の方は村中の竈の灰と廃棄する野菜や食べかすを集めてきて下さい!男性の方は実験用の農地へと案内をお願いします!」


 ぞろぞろと移動したのは畑と森の境界だった。近くに水源はなく、ここなら生活用水を汚染する心配もないだろう。


「ではここにこれくらいの穴を掘ってください。深さは大人の腰くらいで御願いします。」


 道に落ちていた樹の枝をガリガリと地面に擦り付けて大体の大きさを書き込んでいく。


 それを五つほど書き込んで護衛の騎士と不満げな村民に掘り進めて貰うことにした。


 村の端から大きな日々の入った壊れた水瓶を頂いて掘り終わった穴へと入れた。

 

 とりあえず急拵えなのでこんなものでしょう。


 もうひとつ村に一軒だけある酒場からワインが入っていた大きな樽を買い取り、こちらもみんなで転がして瓶入の穴の隣に設置した。


 樽のコルクを下にした状態で下に石を積み高さを出した上に置く。


「あのぅ、これは一体何を作っておいでなのですか?」


 出来上がった樽と穴を除き込んだ村長や村人達を他所に、女性人の運んできた生ごみを樽の中へと放り込んでいく。


 うん、良い感じに腐ってます。灰はまた他の所へ集めて置く。


「奥様方お疲れ様です。出来れば次回からご家庭で出た生ごみをこちらの樽へ入れてください。一定時間入れておくと生ごみが分解されますのでそちらを新農法に使用します。とりあえず今は暫く使えませんので帰り道で使い方を説明します。」


 発酵させてから使いたいので放置ですよ。

 

「それからこちらの瓶の入った穴の中にはご家庭で出た糞尿を廃棄してください。」


 こちらはあからさまにみんなの顔がひきつった。でもやめません!勿体無い!


「村の中を拝見させて頂きましたが道に糞尿を捨てていますよね?実はあれ疫病や病の原因です。」


 断言した言葉に村人だけでなく父様やレイナスからの騎士と、ドラグーン王国の騎士達の間にも動揺が走る。


「シオル!それは本当なのか!?」


「はい。ロブルバーグ法王猊下に教えていただきました」


 前世の知識はロブルバーグ様のせいにしておけば大抵はなんとかなるんです。


「そうか、法王猊下は沢山の国を見てこられた方だからな。」


 納得したように頷いた父様から視線を村の奥様方へもどす。


「疫病や病はおもに体力のない子供や老人が犠牲となります。村の排泄物をこちらに撤去して、なるべく生水を控えて必ず沸騰させた水を飲ませる。食事の前や自宅に入る前に必ず手を洗うだけでもかなり効果があります。大切な子供や家族を守るためにやってみませんか?」


 こう言うことは男性陣よりも女性の結束力が物を言うのだ。


「あの、村を綺麗にすればもう子どもを死なせずに、すみますか?」


 おずおずと発言した若い女性にしっかりと頷いてみせる。年の頃はまだ十代半ばだろうか。女性は両手で顔を被って崩れ落ちるように嗚咽を漏らし始めた。


「ひとりも死なないとは言えませんが、ずっと少なくなるはずです。」


「あっ、ありがとうございます、ありがとうございます!」

 

 泣き崩れた女性にひとりの青年が駆け寄るとその体を抱き締めた後、こちらに礼を述べて彼女を連れて去っていった。


「実は昨年この村を流行り病が襲いましてな、彼等は一歳になったばかりだった第一子を亡くしているのですよ。」

 

「そう、だったのですか。」


「えぇ、他にも何人も幼い子や老人がなくなりました。もっと早くわかっていればと悔やまれます。」


「さぁ、亡くなった子の為にも気合いを入れて掃除するわよ!!」


 この沈んだ空気を真っ先に破り捨てたのはミリアーナ叔母様だった。


 騎士達がとめるまもなく先程まで穴を掘るのに使っていた農機具を肩に担いで側溝の泥上げを始めてしまった。


「そうだな。ミリアーナの言う通りだ。シオル!」


 おもむろに上着を私に脱ぎ捨てると父様まで突撃していった。


「父様!粉塵を吸わないようにきちんと顔を布で被って下さい!」


「おう!」


 呆気に取られた騎士達だったが、自分達の主が率先して作業に従事しているため嫌とは言えずそれぞれも作業に取り掛かった。


「さぁ、私たちもやるわよ!みんな!」


「「「はい!!」」」


 村の纏め役だろう女性の号令で動き出した村の奥様方の働きが凄かった。


 散乱した糞尿を集める者、集めた物を桶に積めて穴へと運ぶ者、各家からまだ投げられていない物を運び出す人。


 さして指示もないのにそれぞれが考えて動いていく。


 うーん、しかし運ぶ人が重労働だなぁ。目一杯中身の詰まった桶を持ち手の荒縄を持って前屈みになりながら、えっちらおっちら捨て場まで運んでいくため、どうしてもスピードで負けてしまっているようだった。


 何かないかなぁと周辺に視線を向けやるとちょうど良さそうな樹の枝を見付けた。


 自分の腕と同じくらいの太さがある枝を愛剣を振り抜き一太刀で幹から切り離す。


 ドサッ!と音をたてて地面に落ちた枝を持ち上げてみると予想より軽い。


 小枝を全て切り落とした後。枝の両側に紐をかけられるだけの溝を掘る。


「殿下は一体何を作っておいでなのですか?」


 一刀で木を切り離した四歳児になぜかひきつりながら、ドラグーンの騎士の一人が聞いてきました。


 何でだろう?この世界の子供ってこれ位普通にできるんだって父様言ってたよ?


「丁度よかった。桶を担ぐ為の天秤棒を作ったので担いでください!」


 天秤棒の両側に作ったの溝に桶の荒縄を掛けると重心をとって肩の上に乗せた。


「ほう。これは運びやすい!」


「どれ!俺にもやらせろ!」


「なんだなんだ!?」


 次々と旦那さんたちが集まってきたのでもうひとつ作ると、自宅から斧を持ち出してきた一人がよう見まねで枝を切り出し始めた。


 出来上がった天秤棒と同じくらいの太さがある枝に斧を勢い良く振り上げると、数回に分けて切り出していく。


 斧の切れ味が悪いんだね、研いだ方が良いんじゃない?


 天秤棒駆使してはしゃぎながら奥様方が桶に入れた糞尿はどんどんと村の外へと運び出された。

 

 なぜか力自慢たちが競い会うように天秤棒に吊るした桶の数を増やしていく。


「あー、そんなに吊るすと・・・・・・」


 ベキッ!と大きな音がしたかと思うと、天秤棒へ六つの桶を吊るしてヨロヨロ歩いていた旦那さんの天秤棒がバッキリ真ん中から折れ、その衝撃で倒れ込んだ所に、運んでいた桶が中身を撒き散らしながら降ってきた。


「やったー!」


 ワイワイと盛り上がり出した男性人に一人の女性がやって来る。


「ちょっと!あんた!なにやってるのよ!?」


 そう言って旦那さんの耳を引っ張りながら回収していった。


「さぁ、野郎共!便利な道具を貰ったんだ!気合いを入れて運ぶぞ!」


「「「おう!」」」


「おー!」


 旦那さんたちに混じって桶運びに混ざり作業に没頭したお陰で村はスッカリ綺麗になった。


 翌日は朝から生憎の雨だったが前日に汚物の除去を行ったお陰で取りきれなかった者が全て洗い流され村が雨露でキラキラと輝いていた。


 仄かに香っていた異臭が全くしない。


「この村のこんなに綺麗だったんだねぇ」


 雨が上がったのを確認して肥溜めと生ごみコンポストの様子を見に行く。


 昨日のうちに雨が入らないように地面を少しだけ周りよりも高く作り、廃材の板で蓋して置いたので無事だった。


「父様、山に少し入って良いですか?」


「構わんが、何をする気だ?」


「腐葉土取ってこようかと思いまして!」


「ふようど?」


「はい!」


 昨日の重労働で筋肉痛になっている皆さんを引き連れて山へと入る。桶の吊るされた天秤棒を背負って比較的村に近い場所の地面を掘り返した。


「うおっ!ふっかふか!」


 掘り返した地面は深々として楽々と鍬が地面に刺さった。固くなってしまっている村の畑とは全然違う。


「このふかふかした土を腐葉土と言います。森の草木が腐った物です。この土を持って帰って畑に混ぜ込みますよ!」


 せっせと運び出したお宝(腐葉土)をまだ使っていない畑に混ぜ込んでいった。


「村長!そう言えば村はずれのセノ婆の所のも集めた方が良いんじゃないか?」


 そう言い出した青年に村長が首をかしげているようだった。


「セノ婆が亡くなってから一年のほったらかしてたからなぁ。」


 ちょっとまて!それって発酵済みじゃん!


「そのまま持ってきて!」


 私は必死に言い出しっぺの青年の脛にしがみついた。


 せっかく発酵済みの肥料を失ってなるもんか!


「わっ!殿下!わかりました!直ぐにもって参ります。」


 そう言うなり背年は天秤棒を担いで村へと走っていってくれました。


 暫くして青年が持ってきてくれた桶には、原型をとどめていない立派な発酵肥料がたっぷりとはいっていました。




 

 


  

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