大司教ロブルバーグの思惑
《ロブルバーグ視点》
聖職者の道を選んではや六十年、仕事で各国を訪ねては多くの赤子や幼子に接してきた。
大司教という身に余る地位を教会から拝謁してからと言うもの、皇族の戴冠式や皇子や姫君に祝福を授けてきたが、先日面白い赤子を発見した。
レイナス王国に最近授かった第一王子はとにかく変わっていたのだ。
普通赤子は本能で生きているために、お腹が空いた、気持ち悪い、嬉しい、悲しいなどの簡単な思いしか感じ取れない。
しかしかの王子は思惑を正確に伝えてきた。
まぁ、それは自分に加護が有ったからこそ感じることができた聡明さなのだが、感覚だけで言えば精神的に赤子とは全く別物なのだ。
あれは面白い!どのように育つのか今から楽しみなのだ。
ドラグーン王国で新王に祝福と国の繁栄を祈り、皇太子に祝福を授けた。
新王はどこかオドオドと落ち着きなく終止俯いていた。
この国王は国を揺らすだろう。
国主の器には到底見えない。
そして後日祝福を授けた新たな王太子殿下は見事な銀髪と麗しい容姿の少年だった。
好奇心を隠そうともせずに真っ直ぐロブルバーグを見詰めてきた少年の瞳には一体何が見えているのだろう?
残念ながら素直な幼子にの気持ちがわかるこの加護ははっきりと自我が芽生える六歳頃には使えなくなってしまう。
脇に控える宰相に視線を送ると、無言ではあるがしっかりと自国の王太子を直視していた。
この宰相は新王ではなく目の前で王冠を授かっている王太子に期待しているのだろう。
先日開かれた舞踏会は王太子妃を選ぶ見合いの場。
それぞれが期待を寄せるなか、かの王子が選んだのは面白い赤子の叔母だった。
なるほど燃えるような赤毛とキリリと整った面は良く似ている。
纏ったドレスは本人の魅力を存分に引き出すものだったが、王子と並ぶとまた違った意味が見える。
分かりやすいほど、王子の色彩を模した色合い。
偶然にしては出来すぎているというものだろう。
「おー、これはこれはレイナス王陛下この度はおめでとうございます」
「これはこれはロブルバーグ大司教様」
慌ただしく帰国の準備を進める最中のレイナス王を見掛けて声をかけると、慌てたように部屋へと通してくれた。
応接室にはいっさい自国から持ってきたものを置いていなかったのだろう。
突然の来客にも関わらずもてなしてくれるようだった。
「こんなに騒がしくしてしまい申し訳ない、ろくな接待も出来ずに」
「いやいや、忙しい処お邪魔したのは此方だ、お気になさらず。ところでどうかされたのかね?」
「実は急なお話でミリアーナの婚姻が決まりましたので、一度国に戻り色々と話し合わねばならなくなりました」
本当に本当に想定外以外の何物でもないのだろう。
一体誰がこの展開を予想していたのか、王子もレイナス王国の姫君もこの国に来るまで面識などなかったはずだ。
「それは忙しい処にすまなかったの、実は頼みがあって御願いにきたのだ」
「頼み、ですか?私に叶うものでしたらご協力致しますが」
「うむ、じつは老齢のため隠居しようと思うのじゃが、隠居先にレイナス王国の教会をと思っておる」
「隠居ですか!?うち、我が国を選んで頂けるのは大変ありがたいですが、何でまた?」
まぁ、当然の反応だろう。
「実は貴殿のご子息様が気に入ってのぅ、是非成長する様を間近で見たいのじゃ」
ロブルバーグの答えに破顔すると、アルトバールは我が事ね様に喜んだ。
「私もシオルの成長を楽しみにしております。宜しければ引退後レイナス王国の王宮へ何時でも入らして頂いて構いませんので」
よし言質は取ったぞ。ここからが本題だ。
「ありがたい。ところでシオル殿下の教育係はもう決めておられるのかの?」
「教育係ですが、まだ産まれて間もないため決まってはおりません。何名か候補者はいるのですが」
しめしめ。
「陛下が宜しければ儂も加えてくださらんかの?」
「大司教様が直々に指南して頂けるのですか!?」
おう、驚いてる驚いてる。
「引退後は只の老いぼれじゃよ、どうだろう?ギャラは衣食住の保障で」
「宜しくお願いいたします!!」
ほほほっと笑うと、アルトバール国王陛下は深々と頭を下げた。
「そうと決まれば善は急げじゃ!レイナス王国までの道程ご一緒しますので道中宜しくお願いいたします!では!」
「えっ!?ちょっと!大司教様!?」
返事も聞かずに年齢を感じさせない素早さで走り去るロブルバーグ大司教を見送り、帰国の同行者がどんどん増えて行くのでした。
やっとシオル編に戻れます!やったー!!皆様のブックマークと評価、ご感想をお待ちしております。又、同時進行で書いている『拾った迷子は皇太子!?』にシオル君28歳が登場中です。




