ミリアーナドラグーン王国へ行く*主役は遅れて参上
「大変お上手ですね姫君」
一曲を踊りきりロアッソと伴に会場の隅へと移動する。
誉め言葉は嬉しいのだが、なんだろうこの違和感。
「ロアッソ殿、姫扱いは辞めてくれないだろうか?あとしゃべり方も普通にしてくれ」
脳筋のロアッソを知っているだけに気持ち悪い。
「どうなされましたか?貴女は正真正銘姫君なのですからなんら問題はないと思っておりますが?」
おい!にやけながら何いってやがる。
絶対反応を見て楽しんでるな?
「はぁ、わかりましたわ。ロアッソ殿本日は大変楽しゅうございました。エスコートが御上手ですのね?御国では皆放おってはおかないことでしょう」
わざとらしーくお姫様っぽくなるように対応。
うう、鳥肌が立ってきた。
「御免なさい、悪ふざけが過ぎました。いつものミリアーナ姫が良いです」
「わかればよろしい。それから姫もいらない」
「わかった。公衆の面前は姫で勘弁してくれ」
ため息を吐くといつものロアッソの口調に戻った。
「はぁ、気持ち悪かった」
「気持ち悪いはないだろうが」
やっぱりこっちの方がロアッソらしくて良い。
楽団の奏でる音楽が途絶えると、ラッパの音が高らかに本日の主催者であるドラグーン国王の入場を知らせる。
ミリアーナの居る場所からは距離が有るため人垣で見えないけど。
「そういえば、ドラグーン王国の王太子殿下って見たことある?」
病弱で滅多に公式の場に出てこないと言う話を聞いたことがある。
「いや、ないな。すくなくともドラグーン王国に来てからは一度も見てない」
今日は王太子殿下を公の場で国内外に御披露目するという話だから、きっとドラグーン国王陛下と玉座へ座っているのだろう。
「ミリアーナ姫、私と一曲御相手頂けますか?」
掛けられた声に振り向けば、周囲の視線を一身にうけながら礼服に身を包んだクラインセルトが居た。
「げっ、クラインセルト」
「これはこれは脳筋殿、御名前が出てきませんねぇ姫を守っていてくれたんですか?感謝します」
「ロアッソだ、別にお前の為に守ってる訳じゃない!」
「ミリアーナ姫、私の格好おかしくありませんか?」
「おい!無視すんな!」
黒を基調にした軍服のデザインに金糸の刺繍を施された礼服は室内にあっても煌めくクラインセルトの銀の髪を際立たせている。
「とっても似合ってるよ」
正直に感想を述べると極上の笑顔を浮かべる。
周囲の令嬢や婦人から黄色い声が上がってますよ。
「良かった。ゼラムにこれを着ない限りミリアーナ姫の元へは行かせないと言われて来るのが遅くなってしまった。いつのまにか悪い虫が着いてるし」
さほど身長差のないロアッソに視線を向けると軽く舌打ちした。
「悪い虫はそっちだろうが」
「じゃぁ馬の骨」
「まぁまぁ、二人ともせっかくの祝宴なのだし仲良くしよう、な?」
「仕方ありませんね」
「ミリアーナがそう言うなら」
ロアッソ、今わざとらしーく姫外したろ。
案の定クラインセルトの笑顔が一瞬固まったよ?
「そうだクライン、ダンスだったっけ?」
「はい。宜しく御願いします」
「おい!まさか今からか?」
青ざめたロアッソが焦った声をあげる。
どうかしたのだろうか?
「ええ、そうです。くれぐれも“邪魔”しないように」
笑顔で邪魔を強調しながらクラインセルトはミリアーナの手を引いて歩き出す。
暫し呆然と二人を見送り、ドラグーン王国の国王陛下入場後まだ楽団の奏でる音が聴こえてきていないのだ。
ドラグーン王国では国王入場後はじめのダンスは王か王太子が踊ることになっている。
「あいつら、一回目で踊るとかないよな?うん、ないない」