ミリアーナドラグーン王国へ行く*知らぬは本人ばかりなり
「うわー、さすが大国ドラグーン」
選びに選んだだろう楽団の奏でる演奏を聞きながら会場に足を踏み入れるとすでに沢山の人が会場入りしていた。
国家の威信をかけて用意したであろう祝宴の会場は豪奢な装飾で飾られているが、それでいて品よく纏められている。
色とりどりのドレスを纏った貴婦人達が美を競い、自国の礼服を纏った紳士がそこかしこでひと時の甘い交友を深めながら談笑していた。
他国、自国の様々な極上の料理と惜しげなくふるまわれる美酒、まさに大国の名にふさわしい舞踏会と言える。
「ミリアーナ、綺麗だなぁ。見違えたぞ」
「兄上、ありがとうございます。自分でも驚いてますよ」
朝早くからドラグーン王国の侍女が気合いを入れて準備してくれましたからね。
「城内に設備された温泉で身体を浄めていただきます。それから全身オイルマッサージと御髪の手入れ、そのあとお着替えをしていただき、髪結いと化粧を施させていただきます!」
寝惚けた状態で起き抜けに言われた時は、はい?って感じでしたとも。
本日の衣装は落ち着いたデザインのドレスを着用していた。
ボリュームを抑えた紺碧のドレスはスレンダーなミリアーナの体型を生かし、結い上げられた赤毛と白い肌に良く映える。
銀細工の宝飾品にはミリアーナと同じ蜂蜜色の琥珀があしらわれていた。
こんなドレス持ってきたっけ?
「兄上、こんなドレスありましたっけ?」
聞くと、兄上まで首を傾げてしまった。
「何着か纏めて作らせたから覚えてないんだよ。試着はしたんだろ?」
「一着だけ。私も姉上任せで覚えてませんよ」
「これはこれはアルトバール殿」
首を傾げる二人の元に、ロアッソを伴ったジョーシン・デュークスがやって来た。
「ジョーシン殿、本日は無理を言ってしまいすみません」
「こちらも驚きましたが問題ありませんよ。代わりに面白い物を見せて頂きましたし」
チラリとロアッソに意地の悪い笑みを向ける。
「アルトバール陛下、先日は大変失礼を致しました。本日はお声掛け頂き光栄です」
身分に合った礼服を身に付けて優雅に挨拶を述べるロアッソは乙女の憧れる騎士様に見える。
残念なことに中身は脳筋だが。
「ミリアーナ姫、大変お綺麗です。良ければ一曲御相手を」
手の甲にキスを受ける。
社交辞令でも褒められればうれしいよね?傍らの兄上を見上げるとしっかりと頷いた。
「行ってこい。ロアッソ殿、ミリアーナを御願いします」
「麗しの姫君をお預かりいたします」
うーん、あなたは一体誰ですか?脳筋どこいった。
「悪いものでも食べた?」
食あたりか?
「失敬な、真実を述べただけですよ。さぁ参りましょう姫君?」
「兄上、行ってきます」
「おう!楽しんでこい!」
ロアッソのエスコートで会場の人混みに消えていく妹を見送ると、アルトバールは同じく二人を見送った友をみる。
「悪かったな、急だったし大変だったろう」
「そうでもないさ、ロアッソはあの通り剣術馬鹿だからな。あいつの両親も見合いを持ち込んでは興味ないと断られて悩んでたんだ。しかしレイナス王国の姫君とはな」
「俺も我が妹ながらあれを嫁に欲しいと言ってくる奴が居るとは思わなかったぞ?」
ロアッソが手を引くとどうしてもミリアーナの方が長身になってしまうが、男はこれからが伸び盛りだ。
数年もしないうちにすぐ追い抜くだろう。
「国にいい土産話が持って帰れそうだな」
「あぁ。そうそうロアッソ殿だがレイナス王国に武術の勉強に寄越すつもりはないか?」
「何故に?」
「近くにいたほうが仲も深まると思うぞ?」
「そうだな、レイナス王国の騎士が猛者なのは昨日の武術大会で証明されたしな。訓練法は興味深いな」
若い二人の様子を眺めながら、くつける算段をしている保護者に、 ロアッソとダンスを踊りながら訳がわからない悪寒を感じるのでした。
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