この美青年誰!?
「あぅ~(夢じゃない・・・・・・)」
「シオル様、おはようございます」
目が覚めると、リーゼさんが私の顔を覗き込んできました。顔色が優れず、目の下には見事な隈が・・・・・・もしかして寝てない?一体今は何時ごろなんでしょうね。
「直ぐにリステリア様にお知らせして、医師を呼んできて」
「はい!」
リーゼさんの指示を受けて同じデザインの服を着た十代の少女がパタパタと部屋から駆け出していく。
「廊下を走っちゃいけませんっていつも言ってるのに」
どうやら現在お母さんのリステリアさんは同じ部屋には居ないようです。
どこか安堵したように微笑むとリーゼさんはゆっくりと私をベビーベットから持ち上げた。
どうもこのヒョイッと持ち上げられるのは慣れない。重力が一瞬無くなるこの感覚は苦手なんだよね。
「シオル様、みんなビックリしたんですよー。リステリア様もアルトバール様も心配されておりました」
「あーぅー(それは申し訳ありません)」
「一応念のために診察をして貰ったら、リステリア様のお見舞いに行きましょうね」
「うにゃー(お見舞い?)」
私が気を失っている隙に一体何があったんだろう。少なくとも最初に姿を見たときは元気そうだったけど・・・・・・
「シオル様が元気に眼を覚まされたことを知れば、直ぐに元気になられますよ。シオル様が一番のお薬ですねー」
ん?もしかして私のせいだったりする?
少女が呼んできたのか、医師は直ぐに診察をしてくれた。
「はい、大丈夫ですね。呼吸も脈拍も正常です」
だって元気ですから!お墨付きをもらう頃、廊下から足音が聞こえてきました。
「シオル~!」
今世のパパ、アルトバールさんが凄い勢いで部屋に飛び込んできました。
「陛下!廊下は走ってはいけませんと昔から申し上げておりますのに」
「シオル!良かった元気だな。心配したんだぞ~」
アルトバールさんはそう言うと、私を抱き上げて頬ズリをする。
目立たないだけでしっかりと有る生えかけの髭は以外とジョリジョリしていて今の柔肌に卸し金の様に当たる。
痛いから!ね?やめてー。
「陛下!リステリア様がお待ちなのでは?早くシオル様を会わせてあげてくださいませ」
「あぁそうだった!宰相が探しに来ても来ていないと言っておいてくれ!行くぞ息子よ」
そう告げて早々に立ち去ろうとするアルトバールさんをリーゼさんが焦って止めた。
「おっ、お待ちください。赤子が冷えてしまいます!せめてこれでくるんで行ってくださいまし!それとまた会議を脱け出して来られたのですか!?」
「我が子と狸ばかりの会議、比べるまでもないではないか」
いや、ちゃんと仕事しようや。
「陛下~!」
廊下に山びこの様に遠くから声が聞こえてくる。
はっ!としたように声がする廊下を見ると焦ったようにリーゼさんから厚手のタオルを受け取りササッと器用に私の身体へと巻き付けた。
「まずい。ではなリーゼ!任せたぞ!」
焦るアルトバールさんに苦笑する。
「えっ!?陛下!ちょっ!」
まだ引き留めようとするリーゼさんを振り切る様にそう言うと、アルトバールさんは私を抱いたまま勢いよく廊下を突っ走った。
謎の陛下~と呼ぶ声のする通路を避けるように角を曲がり、さらに曲がった先に扉が一つ見えた。
「リステリア、シオルが目を覚ましたぞ!」
両開きの重厚な扉を勢い良く開けると、アルトバールさんは居間のようになっている部屋をすぎて奥の部屋に入っていく。
白と黄緑を基調とした部屋には高そうな家具が据え付けられ、柱に施された彫刻が精緻だ。
これ埃とか掃除どうしてるんだろう。20畳は越えそうな居間を抜けると、こちらも白と黄緑を基調にした寝室が現れる。
「ほっ!本当ですか?」
アルトバールさんの声にベッドから身体を起こし今にも迎えに来そうなリステリアさん。
あれ、やっぱり窶れてる?
広い天蓋付きのベッドのリステリアさんに足早に近付くと、ゆっくりと私を手渡した。
初めて会った時よりも顔色が優れない気がする。
「あぶー(大丈夫ですか?)」
声を掛けると柔らかく微笑みを浮かべたリステリアさんに頭を撫でられた。
「シオルもリステリアを心配しているよ」
妻子の様子を見ていたアルトバールさんが心配そうに私をあいだに挟むようにしてベッドへと腰を降ろした。
「シオル、大丈夫よ。お母様は直ぐに元気になりますからね」
「ふにゃ(そうしてください)」
「そうだな、元気になったら皆でピクニックでも行くか」
なんとも気の早いお父様なんだろう。
「えぇそうですわね。でも・・・・・・」
「陛下!見つけましたぞ!」
先ほど閉められたばかりの扉を勢い良く開いて現れたのはインテリ系の美青年だ。
うわー、なにこの部屋の美形率半端ないんですけど!目の保養だぁ。
あれ?見覚えがあるような無いような・・・・・・
「げっ!まいたはずなのに」
「げっ!ではありません!大事な会議を私に押し付けて逃走しないでください。私だって甥っ子に会いたくてうずうずしていたのに!」
甥っ子ってことは・・・・・・改めて比べてみると良く分かる。私のお母様と瓜二つじゃぁないですか。
見覚えがあるはずですね。違うのはお母様のリステリアさんは波打つ髪質なのに対して、目の前でアルトバールさんを叱りつけている伯父様は流れるようなストレートです。
銀縁の眼鏡の奥はリステリアさんよりも深みがあるエメラルドグリーン。
「わかった、わかった。直ぐに戻るから引っ張るな」
「信用なりませんので一緒に戻りますよ!」
おぅ、この伯父様は結構言うねぇ。
「やっとシオルと遊べると思ったのに・・・・・・」
「そんな恨めしそうな目でみられても駄目なものは駄目です!戻りますよ!」
「わかったよ・・・・・・」
そう言う、アルトバールさんはしぶしぶベッドから立ち上がった。
「リステリア様、シオル様お誕生おめでとうございます」
「兄上、昔のようにリスティーと呼んでくださいまし、甥のシオルですよ。抱いてやってくださいませ」
リステリアさんはそう言うと美青年に私を差し出した。
そうか、リステリアさんのお兄さんなんだね。
「髪はアルトバール様だな。目鼻立ちと瞳の色はリステリアにそっくりだ」
伯父様は慣れた手つきで私をあやしながら頭を撫でている。
いやぁ役得ですね。
「シオル様、君の伯父にあたるらルシウスだ。仲良くしてくれ」
はい!ルシウス様!お嫁にしてください!って、駄目だ~。今世の私にはあれがついているんだった。
可愛い男の子の象徴が・・・・・・
「さぁ行きますよ、陛下」
「ゔー、行きたくないー」
「子供じゃないんですからシャキッとしてくださいシャキッと!」
「リステリア~!シオル~!後でなぁ」
半ば引きずられるようにして部屋を出ていく二人を、私はリステリアさんの腕の中から見送った。