ミリアーナドラグーン王国へ行く*手合わせは強者との方が楽しいよね
「ミリアーナ」
溜め息つくか名前呼ぶかどっちかにしてください。
「はい」
「なんでそんな楽しそうな物に俺を呼ばん!!」
えっ!?そっち~!?
「はぁ、陛下今はそれどころではありません。露呈すれば姫を妻に迎えようとする奇特な人物が枯渇してしまいます」
ロンダークさん、酷すぎますよそれ、確かに男に間違えられるけど、間違えられたけど。
世の中にはきっと物好きな殿方もいるはずです!
「ミリアーナ姫は魅力的な女性ですよ?」
地味に落ち込む私を慰めの言葉を掛けるクラインセルトの頭を撫でる。
たとえ御世辞でもそう言って貰えるのはありがたいじゃないですか。
「クライン、そんなこと言ってると真面目に責任とって嫁にして貰うぞ?」
兄上がまるで仔猫をやるぞ?みたいな軽口でとんでもない事を言い始めた。
そんな理由で一応一国の王女の嫁入りが決まってはたまったもんじゃない。
「ちょっ!兄上、酔ってます?」
「えっ、良いんですか?それなら下さい!」
はい~!?なんでもないようにさらりと下さいとか、なに考えてるんだ?
「良かったな!ミリアーナ、もし他に貰い手が居ないときはクラインが貰ってくれるそうだ」
はぁ、クラインセルトは嫌いではないけれどミリアーナにも譲れない結婚の理想はある。
「兄上、幼い頃から申し上げていますように、自分よりも強い殿方でお願いいたします」
皇族の姫として産まれたからには国の駒として他国や貴族に嫁がなければならないことわかっている。
でもどうせ嫁ぐなら自分よりも強い殿方か、手合わせの相手が居る所が良い!
お淑やかな深窓の姫君をミリアーナに求める方が間違いなのだ。人間息抜きは必要。
「姫より強い殿方ですか?アルトバール陛下位しか思い浮かびませんよ?」
どこまでいっても脳筋兄上にはいまだに勝てないのだ。
「では姫がお嫁さんに来てくれるように努力しますね」
にっこりと浮かべた笑顔に寒気が走ったのは気のせいだろうか、なんか前にも似たような感覚があったような?
「始めに言っておきますが、陛下も姫も参加は駄目ですから」
「「え~!!」」
ロンダークに釘を刺され、兄妹で不満に上げた声がハモる。
「え~!じゃありません!あくまでも“守護者”の武術大会なのですから当たり前です!!」
くっ、正論です。仕方ない、観戦に専念するしかないかなぁ。
「わかった、参戦は諦めるが、息抜きに外で素振りは許可しろ!」
「はぁ、暴れられても厄介ですし、どうぞ・・・・・・」
「よし!さぁ行くぞ!ミリアーナ!」
「はい!!」
やった!身体を動かせる!
「ちょっ!御待ちください!私はミリアーナ姫は許した覚えは!?」
「行きましょう!兄上!」
焦って止めるロンダークを振り切って兄上を半ば引き摺りながら急いで外に向かって走ります。
今更駄目とか酷すぎる!止められる前に逃走あるのみ!
「あぁ、姫様の嫁ぎ先が・・・・・・」
「私が貰いますから安心してください」
がっくりと項垂れるロンダークの背中を軽く叩くとクラインセルトはレイナス王国の兄妹の後を追って部屋を出た。
「さぁ~ミリアーナ~かかってこ~い?」
「は~い!兄上行きますよ~」
真剣をブンブンと持ったまま肩を回すと同じく真剣を構えた私をを手招きする。
うきうきとろくに構える事なく呼ぶ声に、剣を振り回して答える。
「ロンダーク殿、なんと言うか気が抜けませんか?」
「えぇ、いつもの事ですよ、さぁ始まるみたいですね」
とてもこれから真剣での撃ち合いをするとは思えない間の抜けたやりとりを見ていたクラインセルトがロンダークに問うと、うんざりした様にロンダークが主人を見る。
言葉通り先に動いた私は真っ直ぐに正面から斬りかかった。
キィンと金属がぶつかり合う鋭い音が庭園に響きわたる。
「今刀身が微妙に逸れた、正確に下ろさなければ本来の力は伝わらないぞ?」
キリキリと音を立てながら剣の刃でミリアーナの剣を受け止めながら飄々と今の一撃の酷評を告げる。
「う~ん、鈍ったかなぁ。」
フッ、と力を抜き後ろに飛び退くと兄上の追撃が腹部を狙って放たれた。
すんででもう一歩下がり躱す。
「う~ん、俺も鈍ってるな、おっと」
姿勢を低くして兄上の足を狙った突撃を華麗に躱し、剣の柄をミリアーナの頭上に降り下ろす。
「あ、兄上!首狙う!?」
「ん~?狙うだろう?致命傷になる場所を重点的に狙えって教えたよな~?」
「習ったわ~、それ!」
体格差を狙って執拗に足を斬りつける。
「足狙いは良いんだがな?背中がお留守だぞ~?」
「うわっ!」
剣を避けた回転を利用し足でミリアーナの尻を蹴り飛ばす。
地面に転がり衝撃を緩和するとすぐに体勢の立て直しを図るが、追い掛けてきたアルトバール兄上によって容易く阻止されてしまう。
「くぅ!もう!」
「遅いぞ?」
ミリアーナの肩を踏みつけて地面に貼り付けながら大人げなく胸を張る。
「もう!兄上が速すぎるだけです!」
「ハハハ、俺に勝とうなんて十年早いわ」
ほんの数手で勝敗が決するレイナス王国の剣術、それは剣術に馴染みのないクラインセルトから見ても脅威として映った。
戦場で発揮されれば、練度の低い兵ならば瞬く間に屠られる速さ。
しかも、撃ち合った本人たちは汗一つかいてはいないのだ。
「くやしー!兄上!もう一回!!」
「おう、何度でも来い?返り討ちじゃ~!」
軽い、なんと言うか、じゃれかかる猫の仔をあしらう親猫のよう。
「あれって遊んでます?」
「完璧に遊んでますね」
はぁ、と溜め息をつくロンダークの反応からしてやはり遊びであるらしい。
この練度で遊び・・・・・・恐ろしい。
「あー!!この間のガキ!!」
「やっと見つけましたよ!!」
庭園に現れた二人の男にクラインセルトの顔が不快に歪む。
腰に下げた剣に手を添えてやって来た男たちをさりげなく警戒しながらロンダークがいつでも動けるようにと僅かに身構えた。