男装麗人な叔母
生誕の儀式と言う名前の大規模なお誕生日会とお食い初めのあと、ロブルバーグ大司教様は宣言通り直ぐに出立されました。
後を追うようにアルトバール父様も、ドラグーン王国に出発することになったのですが、一人で行きたくないとさんざん駄々を捏ねました。
本来なら婚礼と同様に隣国であれば夫婦で参列するのがマナーらしいのですが、リステリアお母様は産後間もなく、私が他の乳母さんのミルクを断固拒否したため、夫婦での参列は難しいだろうと言うことに、まぁ妥当よね。
しかしあの父様は今度は私も連れて行くと言い初めた、なに考えてるんだか。
片道一ヶ月近くの道中は乳飲み子には無理でしょう、リーゼさんとシリウス伯父様にもう反対をくらった結果、リステリアお母様の名代として、私の叔母に当たるアルトバール父様の妹姫が同行することになりました。
今年十五歳になると言うミリアーナ叔母様はふわふわに波打つ赤毛に蜂蜜色の瞳をした少女です。
どうやら父様と一緒に幼い頃から剣を振り回すお転婆さんだったようで、今ではすっかりドレスよりも軍服を好む男装麗人と化していますよ。
「ミリアーナ様!嫁入り前の乙女が木登りなど危のう御座います!」
「大丈夫!こんなの危ないうちに入らないから」
剣術、馬術、弓術等なんでもこなすミリアーナ叔母様が、一番才能を見せたのが戦を模した卓上ゲームです。
アルトバール父様につられて始めたミリアーナ叔母様の実力は今では頭脳派であるルシウス伯父様を凌ぐらしい。
自分より強い男としか結婚はしないと豪語するミリアーナ叔母様の嫁ぎ先に頭を抱えるアルトバール父様はしらないけど、リーゼさんいわくレイナス王国の小さな台風は水面下で国内の貴族令息の間で熾烈な花嫁争奪戦を引き起こしていたりするようです。
そんなミリアーナ叔母様が急遽同行することになった理由が、ドラグーン王国から出立直前に届いた親書だったようですね。
難しい所を省くと、ドラグーン王国が求めてきた内容は、アルトバール父様の先の国王陛下の葬儀への参列と、新王ゼガリアスの戴冠式への出席。
そして新しく王太子となるゼガリアスの子息の花嫁候補を連れてくる様にとの内容だったみたいです。
レイナス王国は覇権争いにすら引っ掛からない小国。
ドラグーン王国の花嫁候補にひっかかるとは思えないですけど、要請を断ることが出来ない以上、誰かを連れて行かなければなりません。
そんな中白羽の矢が立ったのがミリアーナ叔母様でした。
と言うよりもミリアーナ叔母様以外連れていける王女が居ないので、とうのミリアーナ叔母様は優れた名馬を数多く産出しているドラグーン王国に、愛馬(雌)の伴侶を探しに同行をすると思っているみたい。
ロブルバーグ大司教様が、ドラグーン王国で先の国王葬儀と、王太子殿下の戴冠式及び、立太子式を執り行うことを事前に知らせていてくれたので準備万端です。
ミリアーナ叔母様の予期せぬ集団見合いへの参加が決まり大幅な日程の修正が行われ、ミリアーナ叔母様の新しいドレス(本人は要らないと言い張りました)が出来上がり次第出立して行きました。
いってらっしゃーい。
父様一行をお母様と伴に見送った私は言うと、林檎の食べ過ぎで壊したお腹も落ち着き、ひと安心。
まだミルク以外は早かったかぁ、前世の赤ん坊って何ヵ月から離乳食始まるんだっけ?オムツ交換は自分でトイレに行けるようになるまではしかたないので諦めよう。
赤ん坊の義務と戦いながら、最近ではすっかり座った首を使って、新たな第一歩を踏み出すべく現在悪戦苦闘を繰り広げています。
「シオル様!頑張って!」
「あと少しあと少し!」
「おしい!あと一押しなんだけどなぁ」
寝返りと言う名前の壁に阻まれ起き上がれません。むむむ、寝返りって意外と高度な技なのかもしれないわ。
嘗めてたわ、実際。
「あーうー!(ヨッコラショ!)」
年寄り臭いとかいいっこなしですよ、本人自立への第一歩なんですから。
「あっ!いけるんじゃないこれ」
ミナリー煩い!気が散るから黙ってて!
「横になるまでは良いんだけどね」
そうなのよ、リズさん!
「うー(そりゃ)」
身体の下に入り込んだ腕を根性で引き抜くと、バランスを崩した身体が前に倒れこんだ。
「やったー!早くリステリア様に御知らせしなくては!」
「シオル様お上手です」
リズさんとレーシャさんがぱちぱちと手を叩き褒めてくれ、ミナリーが部屋を飛び出して行った。
現在お母様は父様の代行として御客さんの対応を行っているみたい。
この世界の王妃陛下は王の代行が勤まる人物でなくちゃ駄目みたい。
うーん、女性の社会進出はどこでも一緒なんだね。
さぁ、本題はここからだ。目標は1メトル(前世の1メートル位)先の熊をかたどったヌイグルミ!いざ!
「あーぅ!(ヨイショ!)あーぶっ!(コラショッ!)」
くっ!進まない!やはり簡単にはいかないか、腕力が足りない。脚力が足りない。
うーん、蹴った拍子に顔をカーペットに擦り付けしまう。うーん、今後の課題だなぁ。
顔面が磨り減るのと、自力で這えるようになるのどっちが早いかなぁ。
「シオル様!まぁまぁお上手ですこと、リステリア様にもお喜びになりますよ。今は公務で来れませんから後で見せてあげて下さいね」
「あい(はい)」
お母様喜んでくれるだろうか。
やっと首が座りました。先がながいですね、根気よく付き合って頂いている読者の方に感謝です。
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これからもよろしくお願いいたします。