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元勇者の脇役生活  作者: 優。
第一章 ――俺の蚊帳の外で起きていたこの世界の物語――
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第0.5話 『俺の知らないあらすじ』

          《剣×魔法》


 やあ。

 僕の名前は鳴海輝幸なるみてるゆき普通の高校生さ!…なあんて。

 昔の僕ならそんな自己紹介も出来ただろう。

 だけど今の僕には少し変わった秘密がある。

 それは…


「輝幸様!事件が起こりました!」


 少しの溜息と共に、またかという思いは飲み込む。

 声がした方に振り向くと…お姫様の様な美少女が僕の部屋の机の引き出しから飛び出した。

 これはアニメに疎い僕でもわかるよ…

 何時から僕の机の引き出しは異次元へと繋がっていたのだろうか。


「どうしたの…また、何かあったの?」


 僕は聞く。

 毎度毎度違う事件が起こる――と言ってもまだ片手で数えられるほどだけど…それでも、こうも連続して事件が起こると、何か関係性を探ってしまう。

 僕は溜息を着けど、事件を投げ出したりはしない。

 頼ってくれてるんだ、この僕に。

 …なら、助けないと。


「ある町で私の国の大罪人が大きな術式を発動させようとしているのが発見させられました!至急、私について来てください」


 初対面だったら図々しいと思われるだろうけど、これは僕から頼んだ事。


『俯いて泣かなくて良い。謝らなくていい。存分に頼っていいよ。友達を助けるのも、泣いている女の子を助けるのも僕にとっては当たり前のことなんだから。――僕に何が出来る?』


 少し前の記憶。

 彼女と知り合って、こんな関係になったときの思い出。


「僕にできる事があるんだね?」

「貴方にしかできません!」


 笑顔で返された。なら、向かうとしよう。その術式が発動しようとしている場所とやらに。


          《剣×魔法》


 大罪人と言われているセリスティリア・マーガンと対面した。

 事前情報はこうだ。

 大昔にセルーエ――お姫様の様な美少女――の国からある大罪人が追放された。

 その罪は特殊で、必然か下った裁きも特殊だった。

 それは、セルーエたちの世界から(・・・・)から追放し、戻る手段を奪うと言うもの。

 はっきり言って僕にはそれは思い罰なのか良くわからなかったけど、彼女達の国にとってはそこそこ――死罪よりはましかな?程度に思われるような刑罰らしい。

 でも、そのセリスティリア・マーガンは諦めなかったらしい。

 元の世界へ帰るのを。

 そこで彼女は数十年間歴史から姿を眩まして…今、出てきた様だ。

 独学で戻れる様なものなの?とセルーエに聞くと、普通の手段では難しい様だ。

 ただ、方法が無い訳でもないらしい。

 その方法とは――


     ――魔法。


 彼女はそれを利用する事に決めたらしい。

 それは彼女達にとって夢物語の様なものみたいだ。

 彼女達の種族と言うか、彼女達の世界の人は先天的に魔法が使えないらしい。

 その存在は知られてはいても。

 まあ、だからこそ…僕は、彼女に会う事ができたのだから、それは良かったのなと、僕は思っちゃているのだけど、それは置いておいて。

 彼女達異世界人が魔力を扱うのは夢物語――それを実現させたかもしれないセリスティリア・マーガンはもしかしたら、罪が消えるかもしれない。

 それ程期待されているみたいだ。

 今話した内容だと、僕が動く理由は無い。

 僕が阻止しなくちゃいけないのはなんでか。

 予測されたマナの使い方にある。

 大気中のマナを強引に吸収して異世界への扉を開くらしい。

 それだけなら、まだなんで?と言う疑問は消えないけど、まあその吸う量が問題みたいだ。

 土地が死ぬかもしれない――下手をすれば世界が滅ぶかも…と。

 そんな事は阻止しなくちゃいけない。

 帰りたい。

 そんな夢を実現するべく行動できるのは凄いと思う。尊敬する。

 ――だけど。そこに、他人を巻き込んじゃいけない。

誰も彼女にそのことを教えてあげなかったのなら、僕が、教えてあげよう。


「貴方のしようとしている事は間違っている」

 


     《剣×魔法》


 僕がセリスティア・マーガンのもとへ着いたとき、とうの本人はビルの屋上で、上空に浮く巨大な魔力の塊に意識を集中させていた。

 結界がない。ということは、この戦いの余波がそのまま街に及ぶということだ。

 なので、慌てて結界の構築に備えた。


「セルーエ!キミに教わった結界を使うよ!」

「はい!そうすれば戦闘の余波を修復することができますので!」


 閉ざされた結界の中で起きた破壊なら、僕の魔力を使うことで修復することができるのだ。

 規模によって魔力の消費は違って、大規模の修復が必要な場合を考えると億劫になる。まあ、そのままにしておくこともできないからしょうがない。


「無属性魔法、《グレイフィールド》!」


 セルーエに教わった魔法は片手の数ほどしかない。

 けれど、そのどれもが僕がこの現代で戦ううえで必要な無属性魔法というものだ。一つは結界内で起きたことなら修復が聞く《グレイフィールド》。一つは少し前までの記憶を曖昧にする魔法バウンスライト――などなど。

 これらは、セルーエの国に伝わる古事記に記されていたもので、

「国宝なのですが」

 という前置きで書物を渡され、旋律したのは記憶に新しい。


「む?魔法だと?」


 あたりに結界が張られたことに気づいたセリスティア・マーガンは、ぐるりと周囲を見回すと、僕達に気づいた。


「貴様は原住民だな……だが後ろにいる小娘は……」


 そこで言葉を切り、セリスティア・マーガンはカッと目を見開かせたと思うと――ビルの塀から前のめりになって、セルーエをしかと見た。


「貴様はまさか……私の!」

「はい。あなたと同じ国から来た者です」

「馬鹿を言え。その無駄のない美しい顔。白金のような髪色。それは、アジール王国の王族の証だ!」

「……その通りです」

「貴様が!――貴様の国が!私を!このような異界へ追いやり!私の研究(・・・・)に注ぐはずだった血と汗をこのようなロスのために費やさせたのだ!貴様が!」

「セリスティア・マーガン!聞いてください!あなたの罪がもしかしたら――」

「黙れ」


 セリスティア・マーガン――いや、セリスティアさんと言おう。

 「黙れ」といったセリスティアさんの声は、暗い洞窟の奥底のように冷たかった。その声に連想されるのは、ひたすらな失意と絶望。

 今まで経験したことのないどす黒い感情に、僕は生唾を飲んだ。


「セリスティアさん!!」


 感情に呑み込まれず、そうして言葉を出せたのは、背中に感じるセルーエの手の暖かさを感じることができたからだろう。


「こんなことをしなくても――」

「いや、もう察しはついた。大方、私の研究成果を知り態度を変えようというのだろう……!?そんなこと許すはずがない。私の憎しみと研究を、その目で刮目しろ!」


 彼女は着ている白衣を靡かせ翻すと、上空にあるマナでできた球体に手をかざした。

 先程まで緩やかだったマナの球体へ収束する速度が急速に勢いを増す。


「いけません!あの魔力収束はこの地のマナを吸い上げています!」

「どういうこと!」

「マナは、生命が生きる中で必要不可欠なものなのです!輝幸様!このままではあたりの生命が、自分の持つオドとあたりのマナとの含有率の割合が変化し異常をきたします!それだけではありません!地脈から無理にマナを吸い上げるのは大変危険なのです!不足したマナを補おうと地脈から大量のマナが溢れ出ます!大量の魔力はいつ反応してしまうかも……!そして最悪、地球の持つ魔力のバランスが狂い、衛生軌道から外れるやも……!」

「ええと……。どういうことだい?」

「つまりもしかすると、世界が滅びるかもしれません!」

「ちょっ!!」


 セリスティアさんはなぜそんな危険なことをするのか。それは、帰りたいからだ。

 帰りたい。その思いを胸にひたすら見知らぬ地で一人研究を続けてきたのだろう。けれど、そんな非道なことをなんで実行できてしまうんだ……!

 実のところ、僕はセリスティアさんという人物の執念にすごいと感じていた。

 なのに、どうしてと思う。

 セリスティア・マーガンという人物は、僕とは及びもつかぬ人なのだろう。

 一人でなんでも解決できてしまうのだから。

 けれど、その強さがあるというのに、なぜそれをほかの人を助けようって思うことができないのだろうか。それどころか、彼女は誰にも負けない強さを持っていながら他人を配慮することすらしていない。幸せを持っていれば、人は優しくなれる。強いっていうのは、あると「良い」。その強さを持っているのに、幸せを持っているのに、努力してなんでもできる強さを持っているのに――


「なんで!他の人のことを考えることもできないんだよ!」

「Ωadd――泥の人形」


 セリスティアは、こちらに冷たい視線を向けて、奇っ怪な人型を創りだした。もう必要な工程は終わったのだろう。手をかざすことをやめても、球体へのマナ収束は衰えない。


「貴様の結界で、その場しのぎではあるが塞き止められているようだ。排除させてもらおう」


 そして彼女は人形たちを蠢かした。

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