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世紀を越えて

作者: 広河陽

「『センチュリ』で日記をつけようと思うんだ」

 来年からは新世紀、その年は一世紀、つまり百年分の日記をつけられる「百年日記」が流行していた。

 普通の紙でできたものはもちろん、手帳タイプとかバインダータイプとか、本当に色々なものが市場にあふれかえっていた。

 その中で強烈に俺の気をひいたのが、日記専用モバイルの「センチュリ」だった。

 なにせソーラー電池で、ビルの3階から落としても無傷という耐衝撃性、完全防水性で、あらゆるパソコンとデータやり取りが可能、そんなものが手のひらサイズに収まる。

 しかもサポートも万全だ。

 メカ好きの俺としては見逃せない。

 ところが恭一はこともあろうか鼻で笑いやがった。

「そんな機械が百年も使えるか。よく考えてみろ、紙の日記は百年前にもあった。本当に百年間日記をつけるつもりなら、紙製だぞ」

「人類が宇宙に出るこの時代に紙の日記なんか使ってられるか。俺は『センチュリ』で百年日記をつけてやる」

「宇宙時代だからこそ、紙の日記なんだよ。おまえがそういうなら俺は紙の日記を百年間使ってやる」

 お互いが意地になっていた。

 それからニ十年経ち、俺の「センチュリ」はあっけなく壊れた。

 サポートに連絡したが、とっくに部品の在庫が切れていて修理できなかった。

 それから間もなく、恭一が事故で死んだ。


「紙の日記が百年もつか、検証してほしい」


 恭一がつけていた日記は、そんな彼の遺言で俺の手に渡った。

 人の日記を読む趣味はなかったが、遺言で渡ったものだからいいだろうと恭一の日記を読んでみた。

 恭一の親は恭一を連れて惑星探査船に乗り、苦労の末に安住の地をみつけた開拓移民だった。

 俺のように開拓星が整ってから入植した、苦労知らずの入植民ではなかったのだ。

 だからあの時、あんなことを言ったのだ。

 それからまた長い時間がたち――恭一から受け継いだ日記の最後のページを書き込む日が来た。

 今、俺がいるのは、開拓星クエス。

 恭一と会った開拓星セカンド・アースから125光年ほど離れた星である。

 ここまで来る途中、惑星探査船の中で「センチュリ」では確かに日記をつけられなかっただろう。途切れずに日記をつけられたのは恭一のおかげだ。

 来年から新世紀。クエスでも「百年日記」が流行している。俺は3人の孫にこうアドバイスしたいと思っている。

「本当に百年間日記をつけるつもりなら、紙製にしておけ。紙は二百年前の人類発祥の星、地球でも使われていたんだからな」


――了

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