振り分けましょう。
洋菓子店の朝は、空気がピリピリすることが只ある。
忙しければ、どんな店でもどんな職場でもそうだろう。
ただし、忙しさに限定すれば、だけど。
プチケーキをお松さんと仕上げ、終わったらそれを振り分ける。
この店はチェーン店で、私たちがいる店の他に2店舗ある。
でも、厨房があるのは、ここと本店で、あともう1店舗はそれがない。
借りた場所か狭いから仕方ないけど、社長はどんなつもりでその場所を借りたのやら…。
厨房がないその店舗には、配送車でこの店舗からはプチケーキを、本店からはアントルメとシュークリームを1日3回届けている。
そのため、昨日の閉店後に届いた発注書通りに、パン屋で良く使われる底の深い番重に入れて、他店に送る準備をするのだ。
この店の分は、銀のトレーに乗せて取り敢えずは冷蔵庫に待機。
何せ、他店に向かう配送車が到着するのだから、そちらを優先せざるえない。
お松さんは、プチケーキが終わって直ぐに、アントルメの手伝いに入っている。
ピリピリして空気に、ビクつきながら手伝っているものだから、大将が更にキレて怒鳴っている。
ひー……、近付きたくない、あんなところっ!!
大将はこの厨房の責任者をしている、お松さんより少し年下の30代頭らしい。
かなり背も高く、175センチから180センチ位確実にある。
それに比例して横にも貫禄があり、無言で立つだけでも威圧感バリバリだ。
太い眉と眉の間は深い皺、更に眉尻がつり上がっていて、厳めしい顔をしている。
大将というアダ名は私が考えたんじゃなくて、販売の人が考えたものだ。
何というか、『へい、大将!』と呼びたくなる風貌だからだそうだ。
…確かに、板前さんにいそうだよ、白い前掛けとねじり鉢巻姿で。
私はそれを聞いたとき、思わず『うんうん』と、頷いてしまった。
まったく平和的じゃない鳩山さんもとい、怒れる大将は、もしかして昨日だか今朝にでも奥さんと喧嘩したのだろうか。
既婚者である大将は、奥さんと喧嘩すると仕事中の機嫌が最悪になる。
普段なら気にしないところも、怒鳴られるし、雰囲気がピリピリしててお松さんの様になってしまう。
鳩って、平和の象徴じゃなかったかと、現実逃避をしたりしながら慎重に番重にケーキを入れ続ける。
どうやら、大将も配送車の到着を気にし出したらしい8:15のことだ。
アントルメ…ホールケーキのこと。