飾り付けをします。
洋菓子店の仕事は細かいことが多い。
生クリームの絞りもそうだし、飾りだって細かい。
いや、繊細というのが正しいか。
再度手洗いを終えた私は、自分が今日使うダスターと、ぺディナイフを持って、作業台に移動した。
「おはよう、ラッシー」
作業台に向かうと、プチケーキを出していたお松さんに改めて挨拶される。
私は、その呼び名を訂正したい気持ちをぐっと堪えて挨拶を返す。
「おはようございます、松樹さん」
『お松さん』と、私が心の中で呼んでいる松樹さんは、30代後半の男の人だ。
日本人離れした、彫りの濃い顔立ちをしているが、純日本人だ。
美容室では、天パ気味の髪を適当に短く切ってもらっているらしく、仕事後も適当に手で整えているだけで、濃い無精髭も生やしっぱなしという、適当な人だ。
しかし、私服は何故かセンスがいいと評判という不思議。
背は160センチの私より少し高い位だから、170センチはないだろうけど、どう見ても男の人なこの松樹さんを何故、お松さんと呼んでるかというと。
「何からはじめますか?」
「じゃあ、レアチーズからお願いね」
そう、この口調だ。
語尾がいつも優しい…というか、女口調というか。
『〜よ』とか、『〜ね』とか、普通に使うから、ここで働きはじめた頃はものすごく違和感を感じたものだ。
だからといって、おネエではないし、男の人より女の人…特に巨乳が好きとのこと。
…最後の情報は正直、いらなかった。
そんな訳で、私からお松さんと呼ばれている彼から、長細い形状をしたまだ何の飾り付けもされていない、白いだけのケーキを受け取る。
こちら側に回り込んだお松さんは、生クリームの絞りを素早くしてくれた。
その間に、私はレアチーズに使う苺やブルーベリーやラズベリーを切ったりして準備する。
時折、お松さんの絞りをチラ見しつつ、準備を終えた。
少し太めの丸口金で、レアチーズの上を生クリームで飾り付けてもらう。
「じゃあ、お願いね」
全てのレアチーズに、生クリームを絞り終えたお松さんは、向かいの作業台に戻って、プチケーキ出しの続きをする。
出したプチケーキに生クリームを絞り、後は私がフルーツを飾ればいいようにしておいてくれる。
それにお礼をいい、レアチーズを仕上げる。
決められた場所にバランス良くフルーツを配置して、温めたナパージュをその上にぬって、セルフィーユを乗せた。
後は店のロゴが印刷された逆雫型のピックを乗せれば完成!
「おい、これ苺が右にズレ過ぎだ。他のと見比べて同じ様に飾れ!!」
別の作業台から、鋭い指示が飛ぶ。
「松樹!お前何見てんだ!犬江に指示ちゃんと出せっ!!」
「はっ、はいっ!!」
ひーっ、お松さんすみません。
きちんとやり直しますからっ!!
でも、そんなにズレてないような…と、思いながら苺を直す。
7:00になるところだった。
ナパージュ…つや出し用のジャムみたいなもの。
セルフィーユ…ハーブ。スーパーでは、チャービルとして販売されている。




