常連さんの来店です。
「何か、お決まりになりましたか?」
見て回っている様に見えなかったから聞いてみると、既に注文するものが決まっていたみたいだ。
「はい、いま注文してます」
常連さんの視線の先では、姫先輩が注文を聞いてるところだった。
姫先輩が接客しているのは、常連さんと一緒に来店する、後輩らしき人だ。
『らしき』と付く理由は、常連さんがあまりにも落ち着き払った人で年齢が20代半ば〜30代位とよくわからないのと、後輩らしき人がやたらと口調が軽いせいだ。
常連さんが先輩だとしたら、そんな口きいていいわけないだろっ!て、いう言葉遣いをしている。
「ケーキって、やたらと高いよねー。ひとつが小さいのに、何でこんなに高いの?安くなれば、もっと売れるじゃん」
…店員相手だからこの口調というわけじゃなくて、実際に常連さんに対してしゃべってるところを見たことがある。
髪の毛が茶色だし、スーツ着てるけどワイシャツのボタンがだらしなく開いてるし…。
スーツだから、会社勤めだと思うけど、こんなんで大丈夫なのか?
まあ、モデルみたいに足が長くてスタイルいいし、キラキラした綺麗な顔立ちはいいかもしれないけど。
「駄目ですよー。そんなことしちゃったら、赤字になりますぅ〜」
ひっ、姫先輩、あなたは何てこといってんですかっ!?
思ってても、お客さんにいっちゃ駄目ですよ!
「ブランドイメージもありますし、値段はそう簡単には変えられないですよね」
常連さんが、フォローしてくれた。
それも、理由のひとつだし、少なくとも赤字うんぬんよりもマシだ!
ありがとうございます、常連さん。
このままだと、いつ変なことをいい出すかわからない姫先輩を急かしつつ、注文されたものを準備する。
焼き菓子の詰め合わせだから、すぐに包装して姫先輩にはレジをやってもらう。
会計は常連さんがやってくれてるから、変な話は振らないだろうから安心だ。
「店員さん、作業早いね〜。この店、勤めて長いの?」
暇なのか、後輩くんが作業している台の近くに寄って来る。
「いえ、まだ1年にも満たないですね」
「ふ〜ん。じゃあ、前もケーキ屋に勤めてたの?」
…すみませんが、集中させてくれないかな。
口にも顔にも、出せないけど。
「いいえ、高校のときはアルバイトしてませんでしたから、お勤め自体がここがはじめてですね」
個人的なこと話し過ぎか?
でも、無視するのもあれだから、この位いいか。
どうせ、暇潰し目的で、すぐに忘れるだろう。
包装が終わって、姫先輩が準備してくれてた紙袋に入れて振り向くと、後輩くんは、ぽかんと間抜け面をしていた。
しかし、イケメンは、どんな顔してもイケメンだな。
「えっ、店員さんって、18才?」
「…正確にいえば、19才ですね」
一応、1才だけど訂正しとく。
「えーと、じゃああっちの店員さんは?」
「……、年上です」
若干、自分のときより間を開けてから答える。
さすがに、人の年はたった1才差でもいいづらい。
「えぇ〜、店員…犬江さん?って、俺より年下?嘘だぁ〜」
失礼だな、この人。
そもそも、そんな嘘吐いてどうするんだろう。
確かに、実年齢より年上に見られることは多いけど。
「お待たせいたしました」
紙袋を差し出すと、後輩くんは慌てて受け取る。
慌てなくても、手を離さないから安心して大丈夫だ。
怒ってないし!
「「ありがとうございました」」
あっ、今度は姫先輩と被った。
常連さんふたりを見送り、暫くすると姫先輩がやって来た。
「ラッシー、話し弾んでたね〜。あーいう人、タイプなの?」
あの人、お客さんなんですが。
「いえ、お客さんですし。それに、私は年上の落ち着いた人がいいです」
あの後輩くん、年上らしいけど、落ち着いた人とは言い難いしなぁ〜。
「そっか〜…って、あああぁぁっ!!」
急な大声に、私はびっくりした。
姫先輩の視線の先には、さっきの常連さんたちが車で出て行くところだ。
あの車、社用車じゃないみたいだ。
「あの車、知ってる?ねぇ、知ってる!?」
興奮気味の姫先輩がいった車種は、外車らしくて私にはわからなかった。
姫先輩はその車の性能やら、品質やらを懸命に教えてくれるけど、さっぱりわからない。
ただ、外車=左ハンドルだから、後輩くんが運転手ということがわかったけど。
「あぁ、すごい素敵〜」
素敵なのは、この場合は車なのだろうか。
うっとりと車を見送る姫先輩に、やや引きつり気味の顔を向ける私だった。
こんなやり取りをしていたら、時計の針は13:40を指していた。