電話に出ます。
休憩が終わったら、販売用の制服に着替えて、店先に出た。
だいたい私の休憩後から、販売の人たちが順次休む。
さすがに店先に店員がひとりというわけにはいかないから、私がその短い間販売員をしてるのだ。
店長が休憩に入り、私と姫先輩はそれぞれ接客していた。
電話が鳴って、私たちの意識が一瞬、そちらに向いた。
「私が出ます」
ちょうどいいタイミングで、レジを終えていた私は、電話に出た。
手順通りに挨拶して、店名を名乗ると相手が要件を伝えてくれるんだけど……。
「ラッシーだよね?お疲れさまでーす!工場のジョーです!」
すごい元気な声に、思わず仰け反った。
この元気な声の持ち主は、焼き菓子工場のチーフをしているジョーさんだ。
私は電話でしか話したことがなくて、『ジョー』というのが苗字なのか名前なのかもわからない。
年齢も不明で、なんとなーく20代位の女の人だと思っている。
「お疲れさまです、ジョーさん。犬江です。ご用件はなんでしょうか?」
「あははっ、真面目だね〜ラッシーは」
いったい、どこからこのあだ名が広まってるんだ。
苗字を強調しても、笑って流されたし!
いや、それについてはいずれ調べるにして、いまはジョーさんの話をメモしよう。
「…と、いうわけだから、みんなに伝えておいてね〜」
「わかりました、ありがとうございます」
お礼をいって、受話器を置く。
メモを確認して、書き漏らしがないか確認する。
…と、クッというか、クスッというか、笑いを堪えるような声が聞こえた。
ん、何だ?
「こんにちは」
あっ、常連さんだ。
「いらっしゃいませ」
にっこり穏やかに笑うこのお客さんは、週に1、2回来店する男の人だ。
いつも、来店する際はキリッとしたスーツ姿で、短い黒髪は綺麗に整えられている。
スラッと背は高いし、物腰も柔らかだ。
顔立ちはちょっと地味だけど、カッコいい人だ。
箱入りの焼き菓子や、ケーキを買っていくこともあるから、会社で使っているのかなぁ?
領収書書いたこともあるし。
「いや、笑ってすみません。電話に向かって頷いたり、お辞儀したりしていたので、つい」
柔らかく常連さんは笑うが、こっちはそれどころじゃない。
無自覚だったけど、そんなことしてたんだ、私はあぁぁっ!!
たぶんいま、顔が真っ赤だろうな〜と、現実逃避する13:23のことだ。