休憩中です。
「休憩、いただきます」
「いってらっしゃい」
スライドドアの近くにいた、店長に挨拶して休憩に入る。
この挨拶を姫先輩にいえば、『ごちそうさま』と返って来るんだけど、何故だろう……。
ロッカールームに入った私は、エプロンとコック帽を脱いでロッカーに入れた。
この部屋には、畳が3畳入っていて、休憩中はそこで休める様になっている。
衝立もあって、畳との間に置けば休憩中でも例え、誰かが入って来ても安心だ!
胡座かいてる姿は、いくらなんでも見せられたものじゃないし。
簡易キッチンで温めてきた、自分で詰めてきた冷食オンリーの弁当を黙々と食べる。
食べ終わったら、メモを清書しよう。
レシピと呼ぶにはまだ貧相だけど、いくつか計量を手伝ったときに、配合を教わっている。
急いで書いたから、汚くて自分ですら読めない字もあるから、休憩中にせめて今日教わった分だけでも、清書しているのだ。
ゆくゆくは、濡れない様にラミネートでもしようかな〜と、考えている。
どうせなら、いつものプチケーキ用、焼き物用、イベント用のレシピノートも作りたい。
まだ下っぱで、あまり仕事出来ないけど、変に凝り性だよなぁ。
コンコン
「ラッシー、ちょっと」
姫先輩?
「はぁ」
「お客さんに頼まれてさぁ。熨斗紙書いてって。お願い出来ない?」
熨斗紙と筆ペンを持ち、片手で『ごめん』という感じで謝る仕草をしながら入って来た。
「卯月さんはちょうど、銀行に両替しに行っちゃったし、あたしはほら、左利きだから、上手く書けないんだよね…。本当にごめんっ!!」
「はぁ」
本店では、パソコンで入力して熨斗紙に直に印刷出来るんだけど、ここにはない。
普段では、お客さんに書いてもらってんだけど、時折こうして私たちが書くことがある。
専ら、店長がやってくれるけど、いまいないとなるとな……。
姫先輩が左利きだというのも、もちろん知ってる。
友だちも左利きで、習字の止めと払いが逆になるって、すごく大変そうだったし。
「でも、ラッシーは普段から字が綺麗だから、すごく安心!」
「へっ?」
いつの間にか、私の前に屈んでいた姫先輩は目をパチパチキラキラさせながら、上目遣いで見てきた。
あの〜、私は女なんですけど……。
「わかりました、やります」
可愛いけど、直視出来なくなった私が頷くや直ぐ。
「きゃー、さすがラッシー!ありがとぉ〜」
語尾にハートが付きそうな勢いで、姫先輩は熨斗紙と筆ペンを置いてそそくさと、部屋を出て行く。
残された私は、『ぽかーん』だ。
えー、もしかしなくても、押し付け…、いやいや、何でもない。
まだお弁当が残ってる、12:05。
休憩中なんだけどな〜と、溜め息ひとつ吐いた。