メッセージを書きます。
大将は、プチケーキの仕込み。
川ちゃんは窯で焼きもの中。
お松さんは少し早いけど、お昼休憩に入っている。
私はまだまだ、ジャムと格闘中。
このバケツの中味を全部、裏ごししなくてもいいんだけど、ある程度はやっておかないと、急に必要になったときはすごく困る。
朝のプチケーキの仕上げ中、ジャムのペンがなくなって、作ろうとしたら裏ごししたものがなかったときは、すごく焦った!!
ペン1本分だけ急いで裏ごして、作ったけど、あのときのことを思い出すと冷や汗が出てきそうだ。
右手でゴムベラの柄を持ち、左手の掌の下の方は柄から広がってる部分の間に当てている。
こうすると、掌で強くゴムベラが押せて、ジャムが裏ごししやすいと、お松さんに教わったのだ。
前のめりになりつつ、裏ごしをしていると、スライドドアがスルスルと開いて、姫先輩が顔を出した。
手には、フルーツのたっぷり乗った白いアントルメを持っている。
「ラッシー、メッセージお願い」
まだ、少し目が眠そうだけど、声はしっかりしてきてる。
あと、そのあだ名はやめてくれっ!!
「わかりました」
一先ず、ジャムを簡単に片付けてから、メッセージを書く準備をする。
ここのメッセージプレートは、ホワイトチョコで出来ていて、楕円に抜き終えたら金番(金属の番重)に入れて冷蔵保存している。
それを冷蔵からチョコペンと一緒に取り出す。
チョコペンは固まっているから、少し火で温めて、スムーズに出るかを確認してから書き出した。
『おたんじょうび おめでとう』
簡単な平仮名のメッセージだけど、これがなかなか上手くいかない。
『お』や『め』はもちろん、『ょ』も、字が潰れて読めなくなりやすいから、結構気を使う。
しかも、あまりゆっくり書いても手が震えて綺麗に書けないし……。
素早く且つ、丸い部分は心持ち大きくして、何とか書き終えた!
達成感に浸ってると、窓から覗いていた姫先輩が厨房に戻って来た。
書き終えたプレートを、アントルメの上に、少し斜めに差して落ちないように立て掛ける。
大丈夫だと思うけど、アントルメに壊れた部分がないか確認して、姫先輩に手渡した。
姫先輩って、見た目が如何にもギャルっぽいけど、爪にはネイルもしてないし、きちんと長さも短く切り揃えている。
販売員とはいえ、ケーキを扱う仕事だから当たり前のことだけどね。
「お待たせしました」
どやぁって顔を向けると、受け取った姫先輩もニヤリと笑っていた。
いっ、嫌な笑顔だな。
「まだまだだね~」
そういって、時計を指差す。
…うぅ、確かにアントルメ受け取ってから時間が経ってる。
11:17、アントルメを受け取ってから3分。
そりゃ、姫先輩も会計終わらせて窓から覗いてるわけだよね。