お客様がお買い上げです。
お客さんは、2つケーキを買ってくれた。
卵の黄色が鮮やかな、飾りのないシンプルで柔らかなロールケーキ。
クリームチーズの上に、サワークリームと生クリームを混ぜた酸味のあるクリームがかかっているチーズケーキ。
それと、プチキッシュを買ってくれた。
どうやら、急な来客があったらしく、朝ごはんを食べ損ねたそうだ。
プチキッシュの良い匂いにつられて食べたくなったと、お客さんは笑った。
確かに、朝ごはんを食べて来た私でもその気持ちがわかる程に、美味しそうな香りだ。
「いらっしゃいませ」
私がケーキをトングを使ってトレーに移していると、店長が簡易キッチンの方から出て来た。
しっかりエプロンも帽子も身に着けていて、その手にはファスナーの付いたナイロン袋がある。
あっ、レジに釣り銭まだ入ってなかったんだ。
店長は、私には保管場所は不明な、ナイロン袋から釣り銭を出してレジの準備をしてくれた。
「お客様、こちらで先にお会計いたします」
そのまま、会計もしてくれるみたいだ。
お客さん、私がケーキを詰めている間は手持ち無沙汰だったから、正直助かる。
私はその間に、慎重且つ素早さを意識しながら、準備を続けた。
ロールケーキとチーズケーキは一番小さなケーキ箱に。
プチキッシュはお客さんの了解を得て、箱ではなくてシューやキッシュ用のマチがあり、油漏れがしないクラフト紙みたいな袋に入れた。
『本日中にお召し上がり下さい』と印刷されたシールに、今日の日付をスタンプして箱と紙袋の両方に貼り付ける。
あとは、店名の入ったビニール袋にケーキ箱を入れて、取手の直ぐ横の両端を持って会計を済ませたお客さんに渡す。
両端を持てば、お客さんは取手を直ぐに持てるから楽だと、働きはじめに教わった。
「プチキッシュはまだ温かいので、お気を付け下さい」
お客さんに伝えた通り、まだ温かいプチキッシュは同じ袋に入れられない。
それだけ手渡しして、お客さんがお財布を仕舞って受け取ったら、笑顔でお辞儀。
「「ありがとうございました」」
あっ、店長とタイミングが被った。
お客さんも笑顔で、『ありがとう』と、そういって帰って行った。
よかった、よかった。
「そうだ、ラッシー。お湯の準備出来てるから、そちらが一段落着いたらお茶に出来るよ」
なるほど、お湯を沸かしてくれてたから、簡易キッチンの方から出て来たのか。
時間を見れば10:20だ。
そろそろ、一段落着く頃かな?