第二話 神と天使
【〜〜〜♪〜〜〜♪♪♪〜〜〜〜】
音楽会館ではピアノの音が鳴り止まない。
“特別音楽室”――今は誰も使ってない。“一人の男”を除いて。
竹中 裕也――24歳の天才ピアニスト。
音楽会館の玄関には、大きいポスターに裕也の写真。そして、『天才ピアニスト、竹中裕也!!11月20日、リサイタル!!』
という見出し。
愛の多い家庭に生まれ育ち、何不自由なく育ったお坊ちゃん。ピアノが生きがいで、ピアノの才能に恵まれてて、今じゃ“天才”と呼ばれ、この音楽会館に走らない人がいないほどの実力者。
裕也は優しくて温厚で慈悲深い性格で。それゆえにファンも多くて。
裕也は、ピアノの神――神なのだ。
【パチパチパチパチパチ・・・・】
「!館長!」
「すばらしいね、裕也君」
「恐れ入ります」
館長は裕也が小さいときから可愛がってて、裕也も館長になついてた。
「・・・・・・・君のピアノの音は・・・・・・、“天使”も聞いてるようだ。」
「え?」
「・・・・・聞いたんだ。“天使の歌声”を」
「・・・・天使の歌声・・・・・?」
「甘くて、柔らかい声なんだ・・・・、本物の天使が歌っているかのような・・・・そんな声だったんだ。・・・・それも、“君のピアノにだけ”あわせて歌っているんだ・・・・・・・」
「・・・・僕のピアノに・・・・だけ?・・・・ハハッ、それは光栄ですね。天使に歌っていただけるなんて。・・・・なら、その天使に、一度会ってみたいものですね・・・・・・」
――施設。
施設では相変わらず亜香は孤独で。
苦しくて寂しくて死にたくて。
「ねぇ・・・・、あの子、“亜香”って名前だったんだって!」
「へぇー!あいつしゃべらないからさ、いること自体しらなかったぁ〜!」
「アハハッ!!!いえてるぅ!!・・・“あか”なんて変わってるよね」
「“垢”だらけだからじゃなぁ〜い?」
「アハハハハ!!!マジ言えてるぅ〜〜〜!!!」
亜香は誰にも相手にされない。いや、されないほうがいい。
《あんたみたいな子、産まなきゃよかった》
《あんたがあたしの幸せを奪ったんだよ!!》
《アァァァァァァ―――!!!何もかもおしまいだ、お前のせいで!!!・・・・一緒に死んでよ・・・・ねぇ・・・・死になさいよ・・・・死ね―――――!!!》
(・・・・・っっ・・・・!!!ゃぁっ・・・!!いゃぁぁっ・・・・・!!!)
言葉にならない叫びを上げる天使。
誰にも助けを聞いてもらえない孤独な天使。
過去の苦しみという鎖に囚われ逃げることが出来ない天使。
“愛”を知りたいのに邪魔されて知ることが出来ない天使。
今日も天使は叫び声を上げている。
――助けて、たすけて、タスケテ・・・・・・・・・・・!!!
怖い、こわい、コワイヨ・・・・・!!!
人間が怖い。愛が怖い。幸せが怖い・・・・・!!!
そんな天使の苦しみを、神は悟ったのだろうか。
「・・・・・・・、ここか・・・」
“神”――裕也は、施設にきていた。
“天使”に会うために・・・・・・・・・・・・。