第一話 天使の歌声を持つ少女
《第一話 天使の歌声を持つ少女》
――東京都内の某施設。
ここには、18歳未満の“孤児”がたくさん暮らしてる。
――302号室。
「おい、食事だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「まったく、気味が悪い」
【ガタンッ!!!】
荒々しく扉を閉めてから、無情な職員は去って行く。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
少女は、食事に少し手をつけただけで、後はパンと牛乳を持ってどこかへ去っていく。
この少女の名は――宮崎 亜香。誰も誕生日を知らないし、亜香自身も自分の誕生日を知らない。
整った可愛い顔立ちなのに、その顔はいつも曇っていて、キレイな瞳はいつも曇っている。
名前は、一応母親がつけた。母親は、亜香が4歳にまでは一緒にいた。といっても・・・いないほうがよかったのかも知れない。
5歳のときに捨てられて、10年経つから、亜香は15歳だ。
親は当然いない。・・・いたのだけど・・・・捨てられた・・・・。
髪型はセミロング。あんまり長いと“あのこと”を思い出すから、伸びてくると自分で切っちゃう。
思い出したくも無い過去―――首にある青いアザ―――・・・・・
亜香自身がすごく苦しくて。もう、人間から逃げたくて・・・・。
【ガラリ・・・】
「!ニャァァンッ!!」
「・・・・・・ほら、食事だよぉ・・・・・・」
亜香の心の支えは“ネコ”。誰もいることを知らない。
亜香は“愛”を知らない。“人間”を信じられない。
愛がどんなものか分からないから、人間とどう接していいかも分からない。
だから、人間に嫌われる。だからますます・・・・人間不信になる。
“笑い”“微笑み”を知らない。だから人前で笑えない。
【〜〜〜〜〜♪〜〜♪♪♪〜〜】
「!・・・・今日も・・・・聞こえた・・・・・」
隣の音楽会館から、
とたんに嬉しそうな顔。けど、亜香はこの顔が“笑顔”だと言う事をわかっていない。亜香は笑っているけど、自分が笑っていることをわかってない。
「・・・・・・・・・・・・・あ、“空色の国”だ・・・。
・・・スゥッ・・・・・」
小さくて細い体に、めいいっぱい空気を吸い込んで・・・・・。
「♪この国はとてつもなく青いんだよ
なにもないよ だからいいんだよ か細い糸が 私達をつなぐ
周り見てごらん 真っ青だね 明るいよね
つまらない意地 捨ててごらんよ ほら、キレイでしょう?
この虹を 一緒に渡ろう さぁ、向こうへ一緒に行こう
この国はとてつもなく青いんだよ だからネコのように 気ままに生きよう
青の国は空色の国 キレイで気ままに生きれる国
青の国は空色の国 みんなで一緒に暮らそうよ
青の国には 愛があふれてる
この国はとてつもなく青いんだよ だからイヌのように 気ままに生きよう
青の国は空色の国 キレイで澄み切ったあたしの心
青の国には 愛があふれてる・・・・・―――――」
「!あっ、天使の歌声!」
「ホントだ!これ、昨日も聞こえたよね?」
「ウンッ!なんか曲が昨日と違うよね?」
「・・・・キレイな声だよねぇ・・・・・、甘くて、優しくて・・・・、きっと歌ってる人、美人なんだろうなぁ・・・・・」
「こんなきれいな歌声が出せるのは、“天使”以外いないよぉ〜〜!」
某音楽会館。
音楽を聴きに来た人々が噂する“天使の歌声”。あの施設の音楽室でしゃべった声は音楽会館に聞こえる。だからこそ、天使の歌声は聞こえてくる。
天使の歌声――亜香の声。
亜香には特別な才能がある。“即興作詞才能”。
亜香は“愛”の意味を知らない。“キレイ”の意味を知らない。“生きよ
う”の意味すらも知らない。
けど・・・・・、音楽を聴くと、自然に単語が浮かんでくる。それをメロディーにあわせて歌うと、自然と歌が出来てしまう。意識していなくても、メロディーを聴くだけで単語が頭に浮かぶ。だから、作詞ができる。
そして・・・・・、亜香は“天使の歌声”を持ってる。甘くて優しくてどこか切ない声。一流の歌手でも歯が立たない。
「・・・・・・・・・・・・フゥ・・・・・・・、・・・・ねぇ、ネコちゃん?・・・“愛”って何だろうね?・・・頭に浮かぶの・・・でも、意味が分からないの・・・・・・、っっ・・・・・!!!」
【ドックンッ・・・・!!ドックンッ・・・・!】
なぜかはわからないが、“愛”の意味を考えるたび胸が苦しくなり、“あのこと”を思い出す。
苦しくてもどかしくて・・・・、死にたくなる。
“愛”の意味を分からず、少女は今日も暮らしていく。
――でも、このとき神は、生まれてくる世界を間違えた“天使”を見つけ、“幸せ”を授けようとするのだ。
でも、“堕神”がそれを邪魔し、“天使”の羽をもごうとする。
天使は・・・・・・、幸せをもらえるのだろうか・・・・――――