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真・恋姫†無双-白龍翔天-  作者:
第一章
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第13話 再会と処断

 行方不明となった一刀。

 幽州ではまだ消息不明であり、人々の心に不安が募っていく。

 だが皮肉にも一刀の消失が、白蓮に幽州太守としての成長を促す。

 一方の一刀と言えば、独立の機を伺っている孫呉陣営の下で矢傷を癒しながら、そして農業でリハビリと貢献をしながら日々を送っていた。

 「ふぅ……」


 幽州を離れて早1週間。矢傷も大分癒えてきたし、恩返しのためにもと農業をリハビリを兼ねてやっている。

 雨の日は読書で知識を増やしたりと、まさに晴耕雨読の生活を送っている。

 だけど、それももうすぐ終わるだろう。

 蜂蜜もどき―――甜菜で得た資金はそろそろ十分だと思う。最近は城内がバタバタし始めてきたし、それに雰囲気もピリピリとしたものを感じる。

 しかし……袁家にはあとどれくらいの財産があるのだろう。うちの州も裕福になったけど、袁家という括りで資産を足したら足元に及ばない気がする。

 孫呉―――今はそう言うべきかはわからない―――は独立に必要な、加えて復興や炊き出し、様々な整備に使う資金の余裕が出来た。

 それですら袁術の資産の半分にも満たないのだろう。


 「北郷」

 「あ、何? 興覇さん」

 「蓮華様がお呼びだ」


 思索に耽っていたところ、興覇さんに声をかけられる。相変わらずいきなりだったけど、もう慣れた。


 「わかった。今行くよ」


 暇な時間を見つけては城を歩き回る。俺を拾ったことが袁術たちにバレないように城外には出られないから、ストレス解消と気分転換の散歩は城内探索になっていった。

 見慣れた廊下を辿り、孫権さんの下へと向かう。


 「北郷です。入っても?」

 「ああ、入ってくれ」


 最初は警戒されていたようだけど、今では大分打ち解けた……と思う。もっとも侍女さんによると、もともとそこまで警戒されてはいなかったらしいから。


 「北郷」

 「はい」

 「貴方には随分と世話になった」

 「いえ、当然のことをしたまでですから」


 そう。資金とか知識とか……本来ならば秘めておくべき事柄だろうけど、有効活用してくれる人には基本的に弱いんだ、俺は。

 それにここで過ごしていくうち、彼女の人柄がなんとなくつかめてきた。

 真面目で、律義で、民のことを考えていて。時に真面目さが裏目に出て頑固さになることもあるけど、根底にあるのは民の安寧。

 桃香と一緒だ。孫呉の人たちから、といっても全員に会ったわけではないがこの国を良くしていこうという気持ちが感じられる。


 「それで呼び出した件だが」

 「はい」

 「北郷、独立した後の呉に来ないか」

 「……はい?」

 「呉はいいところだぞ。気候も温暖だし民の人柄もいい」


 ……これは引き抜きということでいいんだろうか。

 そういえば反董卓連合で曹操さんからも勧誘されたっけな。


 「民が安心して暮らせる世になったら、いつでも行きますよ」

 「……そうか、残念だ。ならば思春!」

 「ここに」

 「北郷を幽州まで送り届けろ。勿論安全に、だ」

 「はっ」

 「重ねて礼を言おう。袁術から資金を奪えば奪うほど民たちが搾取されるのは心苦しかったが……袁術を追い出すことができればそれは終わる。本当にありがとう」


 手を取られ、彼女の両手から温かな、そして柔らかな感触が伝わってくる。


 「こちらこそお世話になりました、仲謀さん、興覇さん」

 「蓮華だ」

 「え?」

 「私の……真名、だ。それともう敬語でなくとも構わないぞ」

 「蓮華様が名乗られるのならば。思春だ」

 「……あー、じゃ、俺のことも一刀って呼んでほしい」


 蓮華さんと思春さん、か。

 孫呉を担う人たちの真名を預けてもらえるなんて、光栄の極みだ。


 「では、また会おうな……か、一刀」

 「うん、またね……蓮華」


 別れの挨拶を済ませ、思春さんの後について部屋を出る。思春……さん。うん無理だ。なんか呼び捨てにするのが怖い。でもああ言われたら呼び捨てにするしかないんだろうなぁ……。


 「一刻後に迎えに来る。それまでに身支度を済ませておけ。清掃関係はこちらでやるから気にするな」

 「はい」


 とは言ったものの、持ち物なんて無いため片づける物も少ない。

 結局一刻後を待つ間、ほとんど読書に勤しんでいた。

 城を出、道中は思春が目を光らせていたおかげで何事もなく幽州まで入ることができた。無断で国境を超えたとはいえ軍を率いているわけでもないし、見つからなければ問題ないだろう。

 見慣れた景色が視界に広がっていく。偶然か、目先に見えるのは俺が凪・真桜・沙和の3人と出会った村。今では移り住んだ民たちも増え、賑わいを見せている。


 その村を超え、ついに城下までやってきた。


 「ありがとう。おかげで無事に帰りつけた」

 「私は蓮華様の命を遂行しただけだ。北郷、蓮華様を悲しませるようなことがあったら許さん。平和になったら訪ねるといった以上、約定を違えるなよ。では、私は戻る」


 振り向いて、元来た道を去っていく思春。

 見間違いでないならば。言葉の最後に「またな、一刀」と声には出さないが呟いたような気がして。今度から勇気を持って思春と呼ぼうと決めるのであった。


 さて……みんなに、会いに行こうか―――




 で。


 「あの、みなさん……動けないんですが」


 右足には雛里が。左足には風が。右手には真桜が。左手には沙和が。そして背中には星が。

 なんで凪がいないのかって? 警邏中らしい。つまりは……。


 「真桜と沙和はサボりか」

 「ええやんそないなこと! こーしてたいちょが帰って来たんやから警邏なんてどうでもええわ!」

 「そうなの! 警邏より隊長のほうが大事なの!」


 気持ちは嬉しいが……


 「真桜、沙和。サボりで減給な」

 「「ええ~!」」


 町の人に万が一のことがあったらどうするんだ。 ……凪だけでもなんとかなりそうと思ってしまった。


 「お帰り、一刀」

 「ただいま……白蓮」


 何か白蓮の雰囲気が違う気がする。連合の時、白蓮に曹操みたいにオーラを放つようになって欲しいと思ったけど……少し雰囲気が近づいたかな。


 「お前ら、一刀を交えての宴は後回しだ。今は一刀に決定権を委ねた事項がある」


 白蓮がそう言うと、星は不機嫌そうに。雛里はビクリと肩を震わせ。真桜と沙和は気まずそうに顔を背け。風は……いつも通りか。けど、少し眉間にしわが寄っているような。


 「董白の処遇。それをお前に委ねた。独断での行動は軍法において斬首だ。だが、この件は一刀に一任する」


 ああ、そういうことか。

 彼女は謹慎でもしてるのだろうけど、居心地は最悪だったに違いない。


 「わかった」


 俺が頷くと白蓮も俺の目をじっと見た後鷹揚に頷き、身を翻して城内へ歩いていく。




 「真桜、沙和。警邏に戻れ。星、風、雛里はついて来て」


 一刀は3人を連れ、彼女の私室へ向かう。部屋の前まで来ると、武装した兵士が2名、扉の前に立っている。


 「入るよ」


 一刀が扉を開ける前に星が開けて中に入ってしまう。


 「主のご帰還だ」

 「……!」


 罪人というわけでもなく、私室で謹慎しているならば待遇は牢獄より格段に良い。だが。瞳は輝きを失い綺麗な黒髪からは艶が消え、少し頬がこけている。それに心なしかいつもは自己主張が激しいツインテールも元気がない。


 「あ……」

 「主に何か言うことは」


 星が彼女の胸倉を掴んで、吊り上げるようにして立たせる。星のあまりの迫力に、一刀も董白も声を出すことが出来ない。


 「……さい……なさい」

 「言う相手は某ではない、主に聞こえるように言え」

 「……ごめん……なさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」


 一刀の行方不明、生死不明は予想以上に幽州へ打撃を与えた。

 主だった将からは覇気が消え失せ、兵も士気が落ちた。

 箝口令を敷こうにも人の口に戸は立てられずどこからか情報は漏れ、一刀がいなくなったことを知った民たちも活気を失ったと聞く。

 謹慎中の董白を一度だけ星は街へ連れ出した。

 2人とも素性を悟られぬよう街を歩き、しかし彼女は周囲が全て自分を責めているように感じたのかもしれない。

 以前の活気を失った幽州。

 一刀の帰還で湧いた幽州。

 その差が彼女の罪の大きさを悟らせた。



 「……いいよ、俺はこうして生きて帰って来たんだ」

 「う……あ……」


 一刀が董白を優しく抱きしめる。涙、だろうか。彼の右肩に染み渡っていく。


 「うあぁぁぁぁん……」


 矢傷が癒えた右腕で、頭をゆっくりと撫でる。


 ―――……彼女が落ち着くまで、こうしていよう。




 「軍紀では斬首、だったよね」

 「は、はい……」


警邏から呼び戻した三羽烏、星、雛里、風、白蓮。玉座に集まった全員が固唾を呑んで俺の言葉を待っているのを感じる。


 「軍紀は絶対。軍法にのっとり―――董白、君には死んでもらう」

 「……うん」

 「主、執行は某が―――」


「ただ」


 「……?」

 「姉思いの君だ、せめて姉と同じ運命を辿らせてやろう」

 「…………っ」


 桃香についていった月、そして詠と同じ道。これで、董白は「死んだ」。

 甘いと言われるかもしれない、けど。死ぬのは楽。一瞬の痛み、苦しみで終わる。

 人間なのだから憎しみを持つのは当然。ましてやそれが姉の人生を左右するほどの出来事だったのだから。

 董白……彼女が戦場に出ることはもう、無い。

 けど、経験を糧にして伝えていけることがあるから。


 「董白が侍女兼護衛をこなしてくれればみんなの負担も減るだろうしね」


 どうしても太守の白蓮や俺は護衛が厳重になる。人数が多いからと言って強者に勝てるわけではなく、俺たちに手練れの刺客が来たとしたら。その不安を、星たちが拭い切れていないのは事実。

 幽州には名だたる武将が少ない。星を頂点に凪、真桜、沙和と続いたとしてもそれで終わり。前線から外せない人材なのである。


 「真名は……朧、よ」

 「じゃあ明日から早速働いてもらうよ。食事睡眠をしっかり摂ること。髪や肌のお手入れもね」

 「一刀、お前が出した答えがこれなんだな」

 「ああ。これでいいよ、白蓮」

 「よし、わかった」


 さっきまで難しい顔をしていた白蓮が一転、晴れ晴れとした表情になる。反面星はまだ納得がいかないような表情をしているが。


 「なら明日は祝勝会兼一刀の生還祝いだな」


 早速董白……いや、朧の出番だろうか。

 明日はメイド服を期待、かな。あ、おっちゃんに頼んでた服を取りに行かなきゃ。


 「一刀の部屋は戦前と変わってないからな」

 「ああ、ありがとう」


 掃除もしておいてくれたのかな。

 まずは、町の人に顔を見せに行こうか―――




<おまけ>


 「こ、この服を着ろって……!?」

 「君のお姉さんも着てるみたいだよ」


 おっちゃんが広めたらしいけど。アイディアを独占しないおっちゃんはいい人だよなぁ、しかし。


 「う……」

 「気が進まないなら着なくてもいいよ。だけどもう一度言っておこう。君のお姉さんである月と、詠も、着ているよ」

 「うう……お、お姉さまぁ……」


 背中を向けていると衣擦れの音がしてくる。このシチュエーションはっ……!


 「き、着た、わよ」

 「……おお」


 こ、これがギャップ萌えかっ……!

 普段気の強い朧がメイド服に身を包み顔を赤らめて目を潤ませながら上目づかいで此方を見てくる姿は……すごく、いいです。すごく。


 「朝起こすとき容赦しないわよっ!」


……え、俺の侍女なの? 寝込みを襲われそうだ。性的な意味ではなく。


 「ふふん、つかの間の安息を楽しむといいわ」


 ノォ―――――!?


 <この話は本編とあまり関係ありません>

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