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第14話:復讐のワルツ、狂った契約

 雅也の暴力的な威圧感に、リビングの空気は凍りついていた。

 隆は雅也の靴の下で泥を舐めるような屈辱に塗れ、麗華は夫の足元で震えながらも、その瞳にはまだ隆への未練を宿している。


 だが、その沈黙を破ったのは、絶望しているはずの妻・香織だった。


「……ねえ、高岡さんの旦那様」


 香織は乱れたブラウスを羽織ることもせず、堂々とした足取りで雅也に歩み寄った。

 雅也の冷酷な視線が彼女を捉えるが、香織は怯むどころか、誘惑するように彼のネクタイに指をかけた。


「あなたの奥様が、私の夫を泥棒した。……その事実は、どんなに彼を殴っても消えないわ。そうでしょ?」


「……何が言いたい、奥さん」


「対等な『清算』をしましょう、と言っているの。……あなたが麗華さんを壊すのを見せられるだけじゃ、私の気は済まない。……私の夫が、あなたの奥さんに注いだ分……今度は、あなたが私に、その『責任』を取ってくれないかしら?」


 香織の提案に、隆の目が驚愕に見開かれる。

「香織!? 何を言ってるんだ、お前っ……!」


「黙ってて、隆。……あなたは、そこで見ていればいいのよ。私がどんなふうに、あなたの裏切りを『浄化』するか」


 香織は雅也の耳元で何かを囁くと、彼の冷徹な瞳が、初めて獣のような欲望に染まった。

 雅也は隆を踏みつけていた足を離し、今度は香織の腰を強引に抱き寄せた。


「面白い。……裏切られた者同士、最高の復讐劇を演じようじゃないか」


 雅也は、隆と麗華の目の前で、香織をダイニングテーブルの上に押し倒した。

 隆が麗華と愛し合った、そのすぐ横で。


「あぁっ……! 隆、見てる? あなたが私を放置したせいで、私は今、別の男の人に……っ!」


 香織の嬌声が、隆の鼓動をナイフのように切り刻む。

 隆は、自分の犯した罪が、最愛の妻を「復讐の怪物」に変えてしまったことを悟り、絶望の涙を流した。


 麗華はその光景を見ながら、自分から雅也の関心が逸れたことに嫉妬し、今度は隆に縋り付く。

「隆さん……っ、見ちゃだめ、私を見て……っ。私たち、もう二人で逃げるしかないわ……!」


 佐藤家のリビングは、もはや日常の影もない。

 入り乱れる四人の吐息と、復讐と悦楽が混ざり合った卑猥な音が、深夜の街に溶けていった。

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