第12話:所有権の証明、血の味の接吻
「私の家で? 私のベッドで……? ふざけないで」
香織の声は、地を這うような低音だった。彼女は、引きちぎられたブラウスを床に脱ぎ捨てると、薄紫色の冷ややかなレースに包まれた肢体を露わにした。
「他人の夫に種をねだる泥棒猫に、この人が誰の『私物』か、その目に焼き付けてあげるわ」
香織は呆然と立ち尽くす隆の髪を掴み、力任せにソファーへと押し倒した。
「か、香織……やめろ、麗華さんの前で……!」
「黙って。あなたは黙って私に犯されていればいいのよ」
香織は隆のズボンを乱暴に引き剥がし、まだ昼間の麗華の残り香が微かに漂うその場所を、あえて深く、喉を鳴らして愛撫し始めた。その瞳は隆ではなく、真正面に立つ麗華を冷酷に射抜いている。
「……あら、奥様。そんな必死な顔をして。今まで放置していたくせに、取られそうになったら急に執着するなんて、滑稽だわ」
麗華は嘲笑を浮かべながらも、その瞳には嫉妬の炎が燃え盛っていた。彼女はゆっくりと歩み寄ると、隆の顔を自分の太ももの間に引き寄せた。
「隆さん、奥様を見ちゃダメ。私だけを見て……私だけを愛して……っ!」
まさに、隆を綱引きのロープのように奪い合う地獄絵図。
香織は隆の熱りを、無理やり自分の渇いた秘部へとねじ込んだ。
「あぁっ……痛……っ! でも、いいわ……。隆、ほら、もっと私を突き上げて! この女に、私たちが夫婦だってことを思い出させてあげてッ!」
グチュッ、パンッ!! と、リビングに激しい肉音が響く。
香織の動きは、愛などではない。それは「所有権の主張」という名の暴力だった。彼女は隆の首筋を、血が滲むほど強く噛み切る。
「ひっ、あぁ……ッ!!」
痛みと快楽、そして麗華に見られているという異常な背徳感。隆の理性が、濁った色に染まっていく。
麗華はそれを黙って見ていられず、香織の背後から隆の体に手を回した。
「ずるいわ、奥様。私だって、隆さんの熱いのが欲しいの……っ! ほら、隆さん、こっちにも指を出して……!」
妻が正面から隆を締め上げ、愛人が背後からその耳を甘く噛む。
香織は、麗華が隆に触れるたびに、さらに激しく腰を叩きつけた。
「だめ……隆、出さないで! 私の中にだけ、あなたの証を……っ!」
「いいえ、隆さんッ! 私の中に、全部流し込んでッ!!」
二人の女の情念が激突し、隆の限界は一瞬で訪れた。
「あぁあぁああッ!!!」
隆は絶叫と共に、香織の奥深くへと白濁した熱を解き放った。
しかし、その瞬間。
香織が満足げな笑みを浮かべた直後、麗華がその唇を隆の口に重ね、無理やり「隆の種」を共有しようとするかのように、香織の口内へと舌を突き入れた。
「……んぐっ、ふぅ……。ごちそうさま、奥様。でもこれ、半分は私のものよ?」
三人の体液と汗が混ざり合い、リビングの床には無残に脱ぎ捨てられた水色、ピンク、そして真紅のレースが散乱していた。
崩れ落ちる隆の耳元で、香織が低く囁いた。
「……逃げられると思わないで。これから毎日、あの女にされた以上のことを、私があなたに叩き込んであげるから」
隆の視界が真っ暗になる。
一人の男を巡る、終わりのない収奪戦。
この日、隆の「日常」という名の魂は、二人の女によって完全に引き裂かれたのだった。




