終わらぬ論理
「騎士、射手、魔術師、商人、道化師、王様、王妃。この中で、『最も価値がなく、真っ先に消えてしまう存在』は誰だ? ああ、当然理由も必要だ」
ラドバールが提示した三問目は、あまりにも雑多で、拍子抜けするほどに平易な問いだった。先ほどまでの、脳が灼けるような逆説の迷宮に比べれば、問いとしての品格さえ疑わしい。
けれど、私は直感した。理由を求められたことにこそ、この悪魔の狡猾な罠が潜んでいる。ただ偶然に正解を当てるだけでは、無限に「残酷な真実」を生成し続けるこの知能の化け物には到底敵わない。
(ここで終わらせる。私が論理の主導権を握り、この悪魔のプライドを挫くのよ)
私は深く息を吸い込み、巨大な紙片の山を見上げて言い放った。
「いいわ。すべての理由を、あなたの望み通りに答えてあげる」
「……ほう。無駄に言葉を重ねれば、それだけ失言のリスクも高まるぞ?」
無数の眼球が嘲笑うように蠢く。私はそれを真っ向から睨み据えた。
「黙って聞きなさい。道化師は『笑い』という代えがたい特権を持っているわ。王様にさえ唯一意見できる彼らが消えるはずがない。次に商人、金がなければ国は回らず、騎士の剣も魔術師の薬も手に入らない。当然生き残る。騎士と射手は、自らの身を自らで守る力がある。魔術師は、その不思議な力ゆえにどんな時代でも重宝されるわ。消すのはあまりに惜しい。……だから、答えは『王様』よ」
「ほお、続けてくれ」
ラドバールの声に、わずかながらの、しかし確かな興味が混じる。
「字をよく見れば簡単だったわ。騎士、射手、魔術師、商人、道化師、王妃……王以外の全員の文字には、『人』、あるいは『口(生命の証)』や『身(自分自身)』が含まれている。けれど、『王』という字だけは、ただの線が重なっているだけで、どこにも『人間』のパーツが存在しない。つまり王様はこの中で唯一、『人間として存在していない』ということよ」
私は一歩前へ踏み出し、言葉を畳みかける。
「あなたは地獄の偉大な首席代書官。単なる当て字の子供だましなんて用意するはずがない。だから真意はこうでしょ? 『民(人)がいなくなれば、ただの棒線の集まりである王という概念は、真っ先に消えてなくなる』。敢えて『王妃』という紛らわしい選択肢を混ぜたのは流石だけれど、私の目は欺けないわ」
静寂が、先ほどよりもさらに深く、濃密にフロアを支配した。
ラドバールの無数の眼球が、瞬きさえ忘れたように私に固定されている。
「……正解だ。論理の解体、および、文字という記録の根源を突く解釈。見事という他ないな、聖女セシリア」
ラドバールが初めて、敗北を認めるような、歪んだ賞賛の響きを漏らした。
しかし、その巨大な頁たちが、今まで以上に激しく、血を吐き出すようにめくれ始める。
「だが……三問で終わりだとは、私は一言も言っていないぞ?」




