魂を賭けた問い
是非セシリアと一緒に考えてみて下さい。
■ 以下に答えがあります。
ラドバールが刻む血文字が、宙を舞う頁の上で踊り狂う。最初の一問が、地獄の湿り気を帯びた声で紡がれた。
「戦場に一人の騎士がいた。彼は王を守るために、決して壊れない最強の『盾』を持っていた。敵の矢も、火の粉も、すべてその盾が防いだ。しかし、戦いが終わったとき、王は死に、騎士だけが傷一つなく生き残っていた。騎士は裏切っていない。盾も壊れていない。では、なぜ王は死んだ?」
思考の渦に飲み込まれる。
最強の盾、傷一つない騎士。裏切りはなく、盾も機能していた。なのに王は死んだ……。
(盾が防いだのは……矢と、火の粉。それだけ? 盾の大きさが足りなかったの? いいえ、そんな単純な物理的問題をこの悪魔が出すはずがない。最強の盾という前提がある以上、防御そのものに不備はなかったはずよ。では、攻撃は外側からではなく、内側から? 騎士は裏切っていない。ならば……。王の死因は何? 飢え? 病気? いや、戦場での出来事だわ。……待って、もし常識の裏をかいた問いだとしたら……。)
沈黙が重くのしかかる。鼓動が耳元でうるさいほどに鳴り響き、冷や汗が背中を伝う。ラドバールの無数の眼球が、私の脳細胞一つ一つの動きを観察しているような不快感。
盾が「すべて」を防いだのだとしたら。戦場の喧騒さえも、光さえも、そしてなにより……。
■
暗闇の中に、一条の光が射す。イメージが形を成していく。
「……答えは、騎士の自己保身よ。騎士は確かに盾をしっかりと持っていたわ。それに騎士は王の事を決して裏切ってはいなかった。騎士はただ、恐怖を目の前にして死を恐れて怖くなり、自身しか守れなかった。だから王は死んでしまったのよ。」
「……正解だ」
ラドバールが温度のない声で告げた。
だが、奴は眉一つ動かさない。まるで私の回答など、最初から索引に書き込まれていた既知の事実であるかのように。
(悪魔ながら、凄い問いだわ。これは決して油断できない)
そして、間髪入れずに淡々と二問目が続く。
「王妃、商人、道化師。この三人の前に、たった一つの『知恵のリンゴ』がある。『これを食べた者は神に等しくなるが、食べなかった者は永遠に泥の中を這いずることになる』商人は欲に負け、一口食べた。王妃は気高く一口食べた。しかし、道化師だけは、リンゴを地面に叩きつけ、踏みにじった。結局、神に裁かれ、天国から追放されたのは『道化師』だけだった。リンゴを食べた二人は許されたのに、なぜ食べなかった彼だけが罰を受けたのか?」
今度は宗教的な、あるいは倫理的な罠。
私は、今まで読み耽ってきた聖書や分厚い知識書の類を、一度意識の底へ追いやった。教典の中に答えを探してはいけない。このラドバールが投げかける問いだけに集中し、その歪んだ、けれど理の性質を見極める。
■
(一問目と同じ、心理的な問いでもある。それに、今回は聖女として過ごしてきた、私のアイデンティティをも揺さぶろうともしてきている……。でも私は、決して臆病な騎士のようにはならない)
答えは、自ずと湧き上がってきた。
「神の用意したルールに従わなかったからよ。神の用意したルールを踏み躙る行為は、最も罪が重い行いだから。」
淀みのない声で、私は二問目の解答を告げた。
ラドバールは再び、無機質な声音で言い放った。
「正解だ」
(二問目は効いたわ。聖女の私にとっては……とても、とても深くね。でも私の精神を擦り減らす作戦(遊戯)なのも分かってる。そうはいかない。絶対に。この巨大な喋る紙切れめ)




