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白いうさぎ

アルカード様の表情が、影を落としたように曇る。

「この噴水に記憶の結晶をすべて投げ入れたとしても、それは終わりではない。始まりなんだ、セシリア。もし失敗すれば、君が次の城主となる……。心の中でどれだけ叫んでも、愛する者に呪いをかけ続け、石に変えてしまう地獄のあるじに。……今ならまだ、城を去れるかもしれない。その手も、高名な治癒師の魔法なら治せるはずだ」


私は、考える間もなく答えていた。

「みんなを見捨てたりはしない。たとえ、どんな未来が待っていようとも」


私の決意に、アルカード様はどこか悲しげに、けれど慈しむような笑みを浮かべる。

「君を止めはしないよ。……もう知っているだろう? ここでは忠告など意味をなさない。これだけは言える。私は君を、誰よりも信じている。……だがセシリア、ここからが本当の地獄だ」


私は彼の手を離し、意を決して噴水の縁へと歩み寄る。

背中に感じるアルカード様の視線は、静かに、すべてを見守るように注がれていた。


四つの記憶の結晶。そして、指に食い込む指輪を、痛みを堪えて引き抜く。私は迷わず、それらすべてを底知れぬ噴水の闇へと投げ入れた。


刹那、世界が悲鳴を上げた。


城全体を揺るがす凄まじい地震。もはや単なる震動ではない。視界は捻じ曲がり、空間そのものが濁流のように歪んでいく。私は激しい衝撃にバランスを崩し、無様に地面へと叩きつけられた。


だが、その狂乱は突如として幕を閉じる……。


…………無音。


耳が痛くなるほどの、完全な静寂が庭園を支配していた。


顔を上げ、辺りを見渡して息を呑む。転倒した格好のまま時を止めたピピン。そして、立ったまま微動だにしないアルカード様。木の葉の一枚、風のひと撫でさえもが、透明な琥珀に閉じ込められたかのように静止していた。


立ち上がった私の前に、その「影」は音もなく立っていた。


あの、白いうさぎのぬいぐるみ。


ゆっくりと本を閉じた彼は、色のない瞳で私を見つめ、静かに口を開く。


「ついにやってしまったね。これは取り返しのつかない事だよ。聖女セシリア。君が希望と呼ぶものは、そう……正直……哀れだ」

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