愛の在処
リアムがその身を挺して拓いてくれた、最後の路。私は、布で隠した「黄色い蹄」の違和感に耐えながら、ピピンと共に庭園の中央へと辿り着く。そこに鎮座するのは、水の一滴さえ失った枯れた噴水。その縁に両手を預け、淀んだ水面に自身の影を映すアルカード様の背中があった。
一歩、足を踏み出す。
静寂を切り裂く私の気配に、彼は吸い込まれるような速さでこちらを振り向いた。
張り詰めた沈黙が、重く、苦しく、二人の間に横たわる。
先にその唇を動かしたのは、アルカード様だった。
「……城中の兵士たちが騒がしくなったから、すぐに分かったよ。君が皆の記憶を手に入れ、ここへ辿り着いたのだと。……かつての私と同じようにね」
「アルカード様、お願い。最後の『記憶の結晶』が必要なのです」
縋るような私の声に、彼は悲しげな、けれどひどく柔らかな微笑を浮かべた。
「それなら……もう、君に預けてあるよ」
心臓が跳ねる。……預けてある?
私は弾かれたように、自分の指先を見つめた。そこには、城に来た日に彼から贈られた、あの指輪が鈍い輝きを放っている。これこそが、彼が手放せなかった最後の「心」だったのだ。
アルカード様が静かに歩み寄り、震える私の両手を包み込むように取った。
「セシリア。君を心から愛している。それは、偽りのない真実だ。……今まで、多くのシスターに助けを求めてきた。けれど彼女たちは皆、私に掛けられた呪いに飲み込まれ、石へと変えられてしまった。私はただ、自分の心が消えないよう必死に願うしかなかったんだ。それが結果的に、彼女たちを地獄へ送ることになるとも知らずに……」
彼の指先から、切ないほどの熱が伝わってくる。
「結局、私に愛が足りなかったのだと、今ようやく気づいたよ。君のおかげで、こうして自分を取り戻せた。しかし私は、自分の一部を、記憶を、他者に明け渡す勇気がなかったんだ。……でもありがとう、セシリア。君は私にとって、本当に特別な人だ」
私は、言葉を失った。
彼がこれまで抱えてきた孤独の深さと、あまりにも遅すぎた、けれどあまりに純粋な告白。蹄へと変わり果てた右手の感覚さえ、彼の言葉の重みに溶けて消えてしまいそうだった。




