執事の献身
リアムは声を潜め、私の腕を掴んだまま、震える声で話し始めた。
「……城中の兵士たちが、セシリア様を血眼になって探しています。中身のない、空っぽの鎧たちが」
「私を!? アルカード様が命じたというの?」
私の問いに、リアムは苦渋を滲ませて首を振る。
「それは分かりません。ですが、アルカード様がそのような暴挙に出るとは、私には到底思えないのです」
その時、生い茂る蔦のすぐ向こう側を、ガシャン、ガシャンと無機質な金属音が通り過ぎていった。意思を持たぬ兵士たちの足音。
それは始めてこの城に来た時に見た感覚とは大きく異なり、とても不気味だった
どうすればいいの……。このままアルカード様の元へ向かうのは、見つかる危険だけでなく、彼自身が変貌している可能性もある……あまりに大きすぎるリスク。
「ねぇ、ピピン、リアム。アルカード様が何か同じことを何度も口にしていたことはない? どんなに些細なことでも構わないわ」
問いかけに応じ、二人は断片的な、ちぐはぐな言葉を紡ぎ出す。
「『時計の針を逆に回しても、失った秒針は戻らない』と……」とリアム。
「『赤い月が笑う夜は、チェスの駒が足りない』って言っていましたぁ!」とピピン。
いくつもの支離滅裂な独り言。けれど最後に、二人の話は一つの奇妙な「思い出」へと合流した。
『光を失った庭園の噴水に、最後に私が投げ入れたのは、私の心だったか、それとも彼女の瞳だったか……。探しに行かなければ、私の半分を』
「きっとそれね。……探しに行かないと……。アルカード様も、何かを失って彷徨っているのね」
覚悟を決めた私を遮り、リアムが一歩前へと踏み出した。
「セシリア様。私が囮となり、兵士たちを引き付けましょう」
「そんなのダメよ、リアム! あなたが捕まったら……!」
躊躇する私の手を、リアムは力強く、託すように握りしめる。
「セシリア様。あなたに……私たちの未来を預けます」
その言葉を合図に、リアムは茂みから勢いよく飛び出した。
「セシリア様を見つけたぞ! あちらだ、追え!」
わざと声を張り上げ、私とは正反対の方向へと全力で駆け抜けていく。庭を徘徊していた兵士たちがその声に反応し、重い足取りで一斉にリアムの背後へと群がっていった。
兵士たちの影が遠ざかるのを見届け、私はピピンの手を引き、固唾を呑んで目的の場所へと走り出す。




