希望の光
「……どうして、もっと早く教えてくれなかったの」
か細い、今にも消え入りそうな声で、私はうさぎを責める。
すると彼は、感情の読めない瞳を向けたまま、静かに口を開いた。
「ここでは忠告など無意味だよ。君が初めて私を訪れた時から、こうなることは分かっていた。それに、不用意な忠告は、かえってすべての終わりを招くこともある。……何事にも順序があるんだ。ここは『普通』じゃない」
言葉を失い、冷たい洞窟の静寂に沈もうとした、その時。
聞き慣れた、あの底抜けに元気な声が響き渡った。
「セシリア様ー! どこですかぁー!」
穴の向こうから這い出してきたのは、ピピンだった。ピピンは私の姿を見つけると、無邪気に駆け寄ってくる。
「セシリア様、また刺繍の糸が足りなくなると思って、山の中から最高の糸達を探してきたんですぅ! ほらっ!」
そう言って私の目の前まで来ると、ピピンは笑顔で自分の体を開いて見せた。そこには、体に詰まったばかりの、ふかふかとした毛糸の山が収まっていた。
姿を消したのは、私のために。ただ、それだけのために。
「……ピピン……っ」
「これだけあれば、また探検も安心ですね♪」
心から、熱い涙が溢れ出した。私は膝をつき、泣きながらピピンの小さな体をそっと抱きしめる。
「ごめんね、ピピン……。ごめん……本当にごめんね……」
ただ、ただ、何度も「ごめんね」と謝りながら、柔らかな綿の感触を壊さないよう、優しく抱きしめ続けた。
「えへへ、セシリア様は本当に泣き虫さんですねぇ」
ピピンは、いつものようにケラケラと笑う。その無垢な反応が、今は何よりも愛おしく、救いだった。
ようやく涙を拭い、私はうさぎに向き直った。
「……この記憶の結晶を、どうすればいいか教えて。何をすべきなのか」
「簡単さ。庭園の噴水にすべてを投げ入れればいい。……ただし、あと一つ足りないようだが」
「分かっているわ」
最後の一つ、アルカード様が持つ宝石。
「急ぎましょう、ピピン!」
「了解ですぅ! 特攻準備、三回目ですよぅ!」
期待に満ちたピピンを連れ、私は急いで秘密基地を後にした。庭園へ続く、生い茂る蔦の道を一気に抜けようとした、その時。
蔦の暗がりに潜んでいた手が、突然私の腕を強く引き寄せ、その足を止めさせた。
「――お待ちください、セシリア様」
そこには、険しい声を上げるをリアムがしゃがんでいた。
ピピンの無垢な真心に救われたのも束の間、執事のリアムが、私たちの前に立ちはだかえうように姿を現した……。




