浴場に眠る秘宝と代償のメダル
湯気で真っ白に霞む大浴場。私とピピンは、視界の利かない中、必死になって「輝く石ころ」を探し回った。けれど、どれだけ床を這い、壁を撫でても、それらしきものはまったく見当たらない。
影も形もない……。
「どこにもないわね……」
「ないですねぇ、セシリア様。私の自慢の鼻も、湿気で使い物になりませんよぅ」
お湯に浸かっているわけでもないのに、充満する熱気のせいで指先は白くふやけ始めていく。ピピンの愚痴を聞きながら、私は思わず溜息を吐いた。今の私には、ピピンの言う通り、本当に「水難の相」が出ているのかもしれないと弱気が顔を覗かせ始めた。
立ち尽くしていても始まらないと、私は冷静さを取り戻す為に、その場にどさりと腰を下ろした。その瞬間、お尻に伝わる感覚に微かな違和感を覚える。
(……あら? 床が、ここだけ少し柔らかい?)
慌てて座っていた場所のタイルに指をかければ、驚いたことに、それは吸い付くような手応えとともに「パカッ」と外れた。暗がりのなかに鎮座していたのは、柔らかな光を放つ白い宝石。
「やったわ、ピピン! 見つけ出したわよ!」
「やったー! セシリア様、お尻の手柄ですねぇ!」
手を取り合って喜ぶ私とピピン。これで、残るはアルカード様とピピン、あと二つの宝石だけ。私は確信していた。次は、この相棒の番だと。
「ねぇ、ピピン。あなたには、何か心当たりはない? 記憶の断片とか、大切にしていた場所とか。私、いつでも謎解きの用意はできているわ」
身構える私を前に、ピピンはポカンとした顔でこう言い放つ。
「え? ……なにもないですねぇ」
「そうなの……え!?」
あまりの拍子抜けに、私は言葉を失った。なんとか思い出させようと「ほら、お風呂の記憶とか、クジラとか!」と迫ってみるものの、ピピンは首を横に振るばかり。
がっかりして肩を落とす私の前で、ピピンは「でも」と不敵に続けた。
「思い出はなくても、ピピンもそれと似た宝物なら持ってますよぅ」
そう言って、ピピンは自分の体の「綿」の隙間に手を突っ込むと、ゴソゴソと一粒の緑の宝石を取り出してみせたのだ。
「それよ! ピピン、それこそが私が探していたものだわ!」
興奮して叫ぶ私に対し、ピピンは宝石を大事そうに抱え直す。
「ダメですよぅ、これはピピンの、たった一つの宝物なんですから」
「お願い、ピピン。貸してくれるだけでいいの」
「うーん……貸すのも嫌ですぅ」
渋るピピンに、私は必死で食い下がった。「何なら交換してくれる?」という問いに、ピピンは少し考えてから、いたずらっぽく笑う。
「セシリア様の、とっておきの宝物なら、考えてあげてもいいですよぅ」
私は「少し待ってて」とピピンに告げ、全速力で自分の部屋へと戻った。
持ってきたのは、我が家に代々伝わる「聖女のメダル」。それは私がこの城へ来る時、唯一肌身離さず持ってきた、家族との絆そのもの。
「これならどうかしら」
差し出した銀色のメダルを見て、ピピンの瞳がキラキラと輝き始める。
「わぁ、かっこいい! キラキラで強そうですぅ! いいですよぅ、交換しましょう!」
こうして、私はピピンから大切な宝石を譲り受けた。




