連鎖マッサージ
「うう……うぅ……、体が鉛みたい……。一歩も動けないわ……」
翌朝、私はベッドの中で情けない声を漏らしていた。連日の無理がたたったのか、あるいは……。ともかく、私の全身という全身の節々が悲鳴を上げている。二度も冷たい水に飲まれたツケは、想像以上に重かった。
そこへ、冷ややかな足音とともにミレーヌさんが部屋を訪れる。
「いつまで惰眠を貪っているのかしら、この聖女様は。いつまで経っても部屋から出てこないから、見に来てあげたわ」
呆れ顔の彼女に今の惨状を伝えると、彼女は鏡の指先をそっと私の肩に添えてくれた。
「仕方ないわね。そんな無様な姿を私の視界に置いておかれても困るわ。……少しじっとしていなさい。マッサージくらいならしてあげる」
「えっ、ミレーヌさんが……? あ、ありがとう、甘えてもいいかしら」
お言葉に甘えて身を委ねれば、彼女の指先は驚くほど的確に凝りを捉えていく。冷たい鏡の体からは想像もつかないほど、芯から熱が解き放たれていくような、至高の手捌き。
「わーい! 楽しそうですぅ! 私にもしてー!」
そこへピピンが乱入し、私の背中の上でぴょんぴょんと跳ね回る。
「もう、ピピンったら……。わかったわ、今度は私がピピンにしてあげる」
私は横になったまま、這い寄ってきたピピンの綿が詰まった体を優しく揉んであげた。
「はふぅ……、極楽ですぅ。綿がふわふわに若返りますぅ……」
「……何ですか、この奇妙な状況は。聖女がぬいぐるみを揉み、私が聖女を揉むなんて。生産性が欠片もないわね」
ミレーヌさんは毒づきながらも、その手を止める様子はない。
「さて、もう動けるようになったかしら。私はヴェノマさんの調理の手伝いに行くわ。これ以上、私の時間を奪わないで」
彼女が部屋を出ようとしたその時、私は「待って」と声をかけ、枕元に置いていたあの銀の刺繍を見せた。
「……ええ、それは……確かに私のものに違いないわ。けれど、やはり何かが足りない。思い出せそうで、肝心なところが濁っているの」
銀の刺繍を見つめるミレーヌさんの瞳は、どこか遠くを彷徨っている。
「『空を泳ぐクジラの背中で、銀の刺繍をしていた』。……そこまではいいわ。でも、そのクジラの尾に結わえられていた、【空色の長いリボン】が、どうしても見つからないの。あのリボンが風になびく音を思い出せれば、私はすべてを思い出せる気がするのだけれど……。本当におかしいわ、そんなもの、あるはずがないのに」




