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真夜中の訪問者

アルカード様が突然私の肩を掴んで激しく揺さぶり始めた。

「アルカード様、やめて……乱暴だわ……」

うなされながら拒絶しても、その激しい揺れは一向に収まる気配がない。


それどころか衝撃は増すばかりで、私はついに、耐えかねて瞼を押し上げた。


「セシリア様! 起きてくださいっ! 地下への特攻準備、完了ですぅ!」


視界に飛び込んできたのは、お風呂上がりかと思うほど異様にテンションの高いピピンの顔。揺らしていたのはピピンだった。窓の外を見れば、夜明けの気配すら微塵もない深い真夜中。

私は半分閉じた瞳のまま、ぼさぼさの髪の隙間から、この空気の読めない綿っ子を恨めしげに凝視する。


「あはは! セシリア様、寝癖が芸術的ですぅ! 鳥の巣みたいですよぅ!」


笑い転げるピピンを無視し、私は無言のまま反対側を向いて、頭まで布団を被り直した。しかし、彼は諦めるどころか、布団の上に乗って執拗にジャンプを繰り返す。


「起きて、起きてぇ! 冒険が待ってますよぅ!」

「ピピン、やめて……せめて……あと数十分は眠らせて……」

「ダメですぅ! 今が一番ワクワクする時間なんですぅ!」


抗議も虚しく、勢い余ったピピンがバランスを崩して転倒。その反動で、私は布団ごとベッドから床へ転げ落ちる羽目になった。


「……いたた……。もう、ピピンったら。もう少し寝かせてよ……」


結局、抗う気力さえ削り取られ、私は寝癖だらけの頭に寝間着姿という心許ない格好のまま、ピピンに手を引かれて廊下を引きずられていく。

「うんせ♪うんせ♪うんせ♪」


辿り着いたのは、例の奇妙なエレベーターの前。ピピンが昨日手に入れた「小さな鍵」を差し込むと、誇らしげに扉を押し開けた。


ガコン、と鈍い音を立てて動き出す箱。

私はあくびを噛み殺しながら、隅っこに膝を抱えて丸くなった。

「なにかな〜、なにがあるのかな〜!」

隣で鼻歌を歌いながら跳ね回るピピンと、重い瞼を落とす私。


けれど、このエレベーターの下降は驚くほどに長い。

深い地底へと沈み込んでいく感覚に、再び意識が微睡まどろみ始めたその時だった。

「セシリア様、もう着きましたよぅ! シャキッとしてくださいっ!」


ピピンに急かされ、渋々腰を上げて外へ踏み出した瞬間――私の眠気は、一瞬で彼方へ吹き飛んだ。


「……嘘。ここ、本当にお城の中なの?」


眼前に広がっていたのは、想像を絶する巨大な水の世界。

いいえ、それはもはや水槽という概念すら超越していた。まるで海そのものへ迷い込んだような、幻想的な「海中散歩路」

頭上も左右も、青く澄んだ水に包まれている。驚くべきことに、そこにはガラスの仕切りも壁も存在しない。ただ魔法の力によって、水が自ら意志を持つかのように道を開けているのだ。

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