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噴水の秘宝

「見つけましたぁ! セシリア様、見てくださいっ!」


窓枠の狭い隙間に短い指を突っ込んでいたピピンが、誇らしげに一本の細い獲物を掲げた。それは、沈みゆく夕陽の光を鋭く跳ね返す、一本の「銀の刺繍針」。


「まあ、それがミレーヌさんの……。ピピン、あの光の先も追いかけましょう。クジラの背中から漏れる銀の筋が、庭園のどこかを指し示しているわ」


私たちは急いで塔の螺旋階段を駆け下り、光の直線をなぞるように庭園へと飛び出した。辿り着いた先は、長い影が伸びる巨大な噴水の前。


そこには、城の優雅な静寂を切り裂くような、異様な彫像が鎮座していた。

「……何かしら、この像。男女が互いの首元にナイフを突き立て、殺意を剥き出しにしているなんて」

「うえぇ、物騒ですねぇ。リアムの話では、海の向こうで熱狂的に信仰されている『便所の神様』らしいですよぅ」


あまりの不気味さに言葉を失いつつも、今はその「神様」の由来よりも優先すべきことがある。私は不浄の像を素通りし、ピピンと共に噴水の淵に足をかけた。飛沫を浴びながら、最も高い位置にある石の受け皿を覗き込む。


「……あったわ! ピピン、見て!」


澄んだ水底で、一筋の残光に照らされた「小さな鍵」が、静かに眠っていた。

「やったぁ! セシリア様、大発見ですぅ!」

「ええ、これでようやく地下への道が――」


歓喜に沸き、手を取り合って飛び跳ねた瞬間。濡れた石畳が、無慈悲に私の足元をさらった。

「あ……っ」「わわわわぁっ!」


――ドボォォォン!!


派手な音とともに、私たちは揃って冷たい水の中へとダイブした。

ずぶ濡れになり、ドレスが鉛のように重く肌に張り付く。けれど、掌の中にはしっかりとあの小さな鍵が握りしめられていた。あまりの無様な格好に、私たちは顔を見合わせ、堰を切ったように笑い転げる。


「ふふっ、あははは! 聖女もピピンも、これじゃ台無しね!」

「もう、水も滴るいい綿になっちゃいましたよぅ!」


そこへ、芝生を静かに踏みしめる足音が近づいてきた。

「……お戯れのところ失礼いたします。何をしておいでですか、お二人とも」


現れたのは、感情を削ぎ落としたような呆れ顔(想像)のリアム。

「ヴェノマ様が夕食の支度を整えられました。それから……公爵様の馬車が、今ちょうど城門を潜ったところです」


見上げれば、空は燃えるような茜色に染まり、雲のクジラはゆっくりと夜の帳に溶け始めていた。

「アルカード様が戻られたのね。……さあピピン、行きましょう!」


「はいっ! お腹もぺこぺこですぅ。でも、その前に温かいお風呂に入らないと、風邪を引いて綿がカビちゃいますよぅ!」


小さな鍵を握りしめ、私たちは沈みゆく夕陽を背に、暖かな灯火の待つ城館へと走り出した。

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