表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/69

鍵の墓場

「ピピン、今の演技……最高だったわよ。一瞬、本当に聖女の奇跡が必要かと思ったわ」

「えへへ、セシリア様に褒められちゃいましたぁ!」


照れるピピンを横目に、ミレーヌさんはいっそう不機嫌そうにブラシを動かした。

「二人とも、掃除の邪魔よ。遊ぶなら別のところでやってくださる?」


「ねえ、ミレーヌさん。あきらめきれないの。……エレベーターには、もう一つ鍵が必要みたいなの」

「鍵? 鍵ならあそこの『鍵の倉庫』にあるわよ。合うのを自分で探してちょうだい。私はこの泡と格闘しなきゃいけないから忙しいの」


邪魔をした謝罪もそこそこに、私たちはミレーヌさんに教えられた倉庫の重い扉を押し開けた。

……その瞬間。

私とピピンの顎は、驚きのあまり床を突き抜けて地面までめり込んだ。


「……何、これ」


そこは、鍵の墓場だった。

壁一面、床一面、天井まで届くほどの鍵、鍵、鍵……!

数万、数十万という鍵が、まるで銀色の波のように倉庫中に溢れ返っている。


チリン……と、山から一本の鍵が滑り落ち、その孤独な音が広大な倉庫に虚しく響き渡った。


「なにこれぇぇぇぇ!」


私の絶叫がこだまする。

けれど、嘆いていても始まらない。私たちは膝をつき、銀の海に手を突っ込んだ。


……どうだろう……。あれから、かれこれ一時間ぐらいが過ぎた。両親や友達は、今ごろ元気にしているだろうか……。みんな、私が鍵に前で途方に暮れている事を知っているだろうか……。


「……無理だわ。こんな中からあの小さな鍵を探すなんて、何年かかるか分からない……」


私が途方に暮れていると、いつものように三分で飽きたピピンが、自分の体と同じくらい大きな鍵を抱きしめてやってきた。


「ねぇ、ねぇ、見て!見てー!セシリアー! 最強のキーホルダーですぅ!」


「…………」


無言で呆れる私をよそに、ピピンは大きな鍵をポイと捨てると、鍵の山に顔を突っ込んで叫んだ。


「もう諦めた! 開けぇ〜ゴマッ!」


それでも私が反応しないでいると、ピピンは鍵を両手に持ち、サルの真似をしながら踊り始めた。


「ウキー! ウキーッ!」


あまりの状況に、私の意識は遠のき、体から色が失われていく。

ピピンは一本の鍵を手に取り、ソムリエのように透かして見せた。


「うーん……これは200年前の、いいシリンダーのにおいがしますねぇ~」


私の体は白く結晶化し、指先からパラパラと崩れ始める。

「おかしいな……。セシリア様、心の扉、閉められちゃったみたいですねぇ~」


――パリンッ。


白く結晶化したセシリアの概念が、音を立てて砕け散った。


「……これが、今の空気を変える『伝説の鍵』です。……でも、使い方はまだ分かりません」


ピピンが真顔で一本の鍵を天高く掲げ、厳かに宣誓する。……しかし、そこにはもう、砕け散ったセシリアの姿はなかった。


数分後。

なんとか精神を再構築して復活した私と、ピピンは、山積みの鍵の上にちょこんと座り、真剣に向かい合った。


「……さて。どうしましょうか、ピピン」

「そうですねぇ、セシリア様。まずは……お腹が空きましたぁ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ