鍵の墓場
「ピピン、今の演技……最高だったわよ。一瞬、本当に聖女の奇跡が必要かと思ったわ」
「えへへ、セシリア様に褒められちゃいましたぁ!」
照れるピピンを横目に、ミレーヌさんはいっそう不機嫌そうにブラシを動かした。
「二人とも、掃除の邪魔よ。遊ぶなら別のところでやってくださる?」
「ねえ、ミレーヌさん。あきらめきれないの。……エレベーターには、もう一つ鍵が必要みたいなの」
「鍵? 鍵ならあそこの『鍵の倉庫』にあるわよ。合うのを自分で探してちょうだい。私はこの泡と格闘しなきゃいけないから忙しいの」
邪魔をした謝罪もそこそこに、私たちはミレーヌさんに教えられた倉庫の重い扉を押し開けた。
……その瞬間。
私とピピンの顎は、驚きのあまり床を突き抜けて地面までめり込んだ。
「……何、これ」
そこは、鍵の墓場だった。
壁一面、床一面、天井まで届くほどの鍵、鍵、鍵……!
数万、数十万という鍵が、まるで銀色の波のように倉庫中に溢れ返っている。
チリン……と、山から一本の鍵が滑り落ち、その孤独な音が広大な倉庫に虚しく響き渡った。
「なにこれぇぇぇぇ!」
私の絶叫がこだまする。
けれど、嘆いていても始まらない。私たちは膝をつき、銀の海に手を突っ込んだ。
……どうだろう……。あれから、かれこれ一時間ぐらいが過ぎた。両親や友達は、今ごろ元気にしているだろうか……。みんな、私が鍵に前で途方に暮れている事を知っているだろうか……。
「……無理だわ。こんな中からあの小さな鍵を探すなんて、何年かかるか分からない……」
私が途方に暮れていると、いつものように三分で飽きたピピンが、自分の体と同じくらい大きな鍵を抱きしめてやってきた。
「ねぇ、ねぇ、見て!見てー!セシリアー! 最強のキーホルダーですぅ!」
「…………」
無言で呆れる私をよそに、ピピンは大きな鍵をポイと捨てると、鍵の山に顔を突っ込んで叫んだ。
「もう諦めた! 開けぇ〜ゴマッ!」
それでも私が反応しないでいると、ピピンは鍵を両手に持ち、サルの真似をしながら踊り始めた。
「ウキー! ウキーッ!」
あまりの状況に、私の意識は遠のき、体から色が失われていく。
ピピンは一本の鍵を手に取り、ソムリエのように透かして見せた。
「うーん……これは200年前の、いいシリンダーのにおいがしますねぇ~」
私の体は白く結晶化し、指先からパラパラと崩れ始める。
「おかしいな……。セシリア様、心の扉、閉められちゃったみたいですねぇ~」
――パリンッ。
白く結晶化したセシリアの概念が、音を立てて砕け散った。
「……これが、今の空気を変える『伝説の鍵』です。……でも、使い方はまだ分かりません」
ピピンが真顔で一本の鍵を天高く掲げ、厳かに宣誓する。……しかし、そこにはもう、砕け散ったセシリアの姿はなかった。
数分後。
なんとか精神を再構築して復活した私と、ピピンは、山積みの鍵の上にちょこんと座り、真剣に向かい合った。
「……さて。どうしましょうか、ピピン」
「そうですねぇ、セシリア様。まずは……お腹が空きましたぁ」




