鏡の冷笑
「あら、セシリア様。そんなに血眼になって何を求めていらっしゃるのかしら? この城の埃でも集めてコレクションにでもしているの?」
掃除の手を止めたミレーヌさんが、冷ややかな視線をこちらへ向けた。彼女の体は、いつもより磨き上げられた巨大な姿見そのもの。その鏡面に映る私の顔は、不安でひどく歪んで見えた。
「ミレーヌ……さん。地下の巨大水槽へ行きたいの。鍵を貸していただけない、かしら……」
「あそこ? 陰気で湿っただけの、忘れ去られた奈落よ。あなたのようなお綺麗な方が、わざわざ汚れに行くなんて物好きね。……でもいいわ、貸してあげてもいいけれど、条件があるの。この回廊の窓ガラスを、私自身と同じくらい曇り一つなく磨き上げること。できるかしら?」
「ええ、もちろんよ」
私とピピンは必死に手を動かした。けれど、ピピンはすぐに飽きて、濡れた雑巾を丸めてスライムに投げつけて遊び始める。
「ピピン! 遊び道具にしている暇があるなら、その短い手を動かしなさい。あなたの綿を雑巾代わりにして磨いてあげましょうか?」
ミレーヌさんの鋭い棘のある言葉が飛ぶ。ピピンは「ひえぇっ!」と飛び上がり、大慌てで窓にかじりついた。その様子が可笑しくて、私は思わず小さく吹き出してしまう。この城に来てから、こんな風に誰かの気配を騒がしく感じることが、いつの間にか心地よくなっていた。
窓が鏡のように輝き始めると、ミレーヌさんは鼻で笑い、金の鍵を差し出した。
「せいぜい期待外れに終わらないよう祈っているわ。あそこには、救いなんて一つも落ちていないでしょうけれど」
鍵を受け取り、私たちは地下へと続くエレベーターホールへと急いだ。
薄暗い廊下を歩きながら、ピピンがふと振り返り、耳を揺らす。
「セシリア様が来てから、なんだか毎日がドキドキですぅ! みんな、ピピンが誘っても『写る価値がない』とか『肥料にならない』とか言って、全然遊んでくれなかったから……」
「私もよ、ピピン。あなたがいなければ、私は今頃この静寂に飲み込まれていたわ」
たどり着いたエレベーターの前。ミレーヌさんの鍵を壁の穴に差し込み、力一杯回した。
――ガシャリ、と金属の噛み合う乾いた音が響く。
けれど、動いたのは外側の蛇腹式の格子だけ。その奥に鎮座する、紫色の重厚な扉は、冷徹な沈黙を保ったまま微動だにしない。
「うわーん! なんで開かないんですかぁ! この意地悪な紫色の壁めーっ!」
ピピンが短い足でポカポカと扉を蹴るが、情けない音が響くだけ。
私は眉をひそめ、冷たい紫の鉄扉にそっと指先を滑らせた。
(鍵は確かに回ったわ。でも、まるでもう一つ足りないと言われているみたい……)
鍵という物理的な手段だけでは、この深い闇への扉は開かないの?
私の脳裏に、ポケットに忍ばせた「蒼い宝石」と「赤いハンカチ」の熱がよぎった。




