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期待の鼓動

リアムを見送ったあと、私は足早に下の庭園へと向かった。

そこではマダム・ヴェノマが、優雅な仕草で土をいじっている。


「あら、セシリア。そんなに急いで……私に肥料として埋められたいのかしら? 今日の土はとても寝心地がいいわよ」


相変わらず、物騒な挨拶が飛んでくる。私は苦笑いしながらじょうろを手に取り、彼女の隣で水やりを手伝い始めた。


「いいえ、マダム。今日はあなたに、もっと素敵なものをお返ししに来たの」


私はポケットから、あの「赤い革靴」と、無限回廊で見つけた「赤いハンカチ」を並べて差し出した。

それを見た瞬間、マダム・ヴェノマの手が止まる。彼女は泥を払うことも忘れ、吸い込まれるような手つきでハンカチをそっと受け取った。


「……これ、は……」


彼女はじっとハンカチを見つめたまま、微動だにしない。

私は内心で(キター!)と拳を握りしめた。彼女の瞳がわずかに揺れ、記憶の蓋が少しずつ持ち上がる。早く、早く次のヒントを――。


「……そうね。思い出したわ。私はこのハンカチを振って、『沈みゆく巨大な夕日を、海の底から引き揚げた』のよ。空が真っ暗にならないように、世界が冷え切ってしまわないように、何度も、何度も……。そのたびに、指先が焼けるような熱さを感じていたわ」


マダム・ヴェノマは、まるで熱に浮かされたように「ちぐはぐな思い出」を語り始めた。


(夕日を引き揚げる……? 太陽の次は、夕日なのね)


突拍子もない話。けれど、彼女がハンカチを握りしめるその指先からは、確かに陽炎のような熱気が立ち昇っていた。


「マダム、ありがとう! 行きましょう、ピピン!」


「はいはーい! 待ってましたぁ! 今度はどこへ探検に行くんですかぁ?」


植え込みの影から飛び出してきたピピンを捕まえ、私は意気揚々と歩き出した。

ピピンは「探検! 探検!」と、お尻を振りながらノリノリで私の後を追ってくる。


(夕日を引き揚げる場所……。海の底のように深い場所、あるいは、空に最も近い場所……?)


私たちは並んで腰を下ろし、マダム・ヴェノマの言葉のパズルを解くべく、知恵を絞り始めた。


「海の底から夕日を引き揚げる場所……。ピピン、そんな場所がこの城のどこかにある?」


私の問いかけに、ピピンは短い腕を組んで、うーんと唸り声を上げる。


「海の底……。あ! そういえば以前、アルカード様がそんな話をしていた気がしますぅ! 城の地下深くに、湖の底と繋がっている『巨大水槽』があるって!」


「巨大水槽……そこだわ! きっとそこに、ヴェノマ様が言っていた何かが眠っているに違いないわ」


期待に胸を膨らませ、私はさっそく駆け出そうとしました。けれど、ピピンが慌てて私のドレスの裾を引っ張ってくる。


「待ってください、セシリア様! そこへ行くには専用の『エレベーター』を使うしかないんですけど、今は動かないんですぅ」


「えっ、壊れているの?」


「ううん、壊れてるんじゃなくて、誰にも勝手に降りられないように『動力ロック』がかかっているんです。それを外すための特別な鍵がないと、びくともしませんぅ……」


ピピンの話では、その鍵は確か、城の秩序を守るミレーヌ様が預かっていたはずだと……。


「ミレーヌね……。簡単には渡してくれないかもと、背に腹は代えられないわ。行きましょう、ピピン!」


私たちは、いつものように規則正しい音を立てて廊下を掃除しているミレーヌを探しに、足早に向かう。

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