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太陽の絨毯

「太陽の絨毯」で「踊り続けた」……。

マダムの言葉を反芻しながら、私は城の廊下を足早に進んでいた。


「太陽の上で踊るなんて、マダムは熱いのが好きなんですねぇ。ピピンだったら、すぐにお餅みたいに焼けちゃいますよぅ」


「そうね、ピピン。でも『太陽』が本当の太陽だとは限らないわ。この城では、比喩が現実になってしまうもの……」


「比喩? 自由? なんだか難しい言葉ですねぇ。あ、でもセシリア! 『いつも床がホカホカしてて、歩くと足の裏がくすぐったい部屋』なら知ってますよぅ!」


ピピンはそう言うと、いつもの密偵のような足取りで、城の西翼にある、なんの変哲もない木製の扉の前で止まった。


「ここ……なの?」


「はい! 誰も使ってないみたいですけど、ピピンはたまにここで床暖房ごっこをして遊んでるんですぅ」


私は緊張しながら、その扉をゆっくりと押し開けた。

中は、驚くほどガランとした空っぽの部屋だった。家具もなければ、カーテンすらない。ただ、部屋の真ん中に立つと、確かに足の裏からじんわりとした、生き物の体温のような熱が伝わってくる。


「……本当。床が熱い。それに、見て、ピピン」


殺風景なその部屋の正面の壁に、たった一つだけ絵画が掛けられていた。

けれど、その絵を見て私は息を呑んだ。


「これ……このお部屋の絵じゃない」


そこには、今私たちが立っている、この「何もな空っぽの部屋」が、寸分違わず精密に描かれていた。

ただ一つ違うのは、絵の中の部屋の床は、燃えるような赤と黄金のモザイク模様で埋め尽くされ、その中央で、あの「赤い革靴」を履いた人影が激しく舞い踊っていること。


「ねえ、セシリア。絵の中の部屋には、何か落ちてますよぅ?」


ピピンが絵の隅を指差した。

私は顔を近づけて、その「描かれた落とし物」を凝視した。


「……ハンカチ? 靴と同じ、燃えるような赤だわ……」


絵の中に描かれた、場違いなほど鮮やかな布の切れ端。それを確認して、隣にいるはずの相棒に同意を求めようとした。


「ねえ、ピピン。あなた、これに見覚えは――」


返事がない。

驚いて横を見ると、そこには誰もいなかった。つい数秒前まで「ホカホカしますねぇ」とはしゃいでいたはずのピピンの気配が、霧が晴れるように消え去っている。


「……ピピン? ピピン、どこにいるの?」


声が部屋に虚しく響く。慌てて周囲を見渡したとき、私の心臓が大きく跳ねた。

さっきまで何もなかったはずの床の中央。そこに、絵の中に描かれていたのと全く同じ「赤いハンカチ」が、ぽつんと落ちていた。


私は震える手でそれを拾い上げた。

シルクのような滑らかな手触り。けれど、指先に触れた瞬間、それが恐ろしいほど熱を帯びていることに気づく。まるで、誰かの体温をそのまま閉じ込めたかのように。


「嫌な予感がするわ……。ピピン、もういいから出てきて! お遊びはやめて!」


返事はない。焦燥感に駆られ、私は逃げ出すように部屋の扉を開け放った。

「……え?」


扉の先。そこにあるはずの廊下はなく、全く同じ「空っぽの部屋」が広がっていた。

驚いて振り返る。背後にあるはずの入り口も、同じ部屋へと繋がっている。

右の壁を見れば、同じ絵画。左を見れば、同じ床。


私は、閉じ込められたのだ。

それも、過去か現在かも分からない、マダムが踊り続けていた「記憶の断片」の中かもしれない……。


「神様、どうかお守りください……。ピピン、どこなの? 私を一人にしないで……」


孤独という冷たい毒が、聖女としての平静を蝕んでいく。

けれど、立ち止まってはいられない。私がここで消えてしまったら、ピピンも、リアムも、そしてあの歪んだアルカード様も、誰も救うことができなくなる。


(……進まなければ。たとえこの先が、地獄へ続く踊り場だとしても)


私は拾った赤いハンカチを握りしめ、照明魔法の光を震わせながら、無限に続く「同じ部屋」の奥へと足を踏み入れた。

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