苦いお茶会
差し出されたカップを口にした瞬間、私の表情は凍りついた。
(……に、苦い。いえ、これは苦いというレベルを超えているわ……!)
「うえぇぇ、まずーい! ヴェノマ、これお花の根っこの泥で作ったんですかぁ?」
ピピンは素直すぎるほど正直に、べーっと舌を出して顔をしかめた。聖女として、そして客としての礼儀を重んじる私は、必死に頬の痙攣を抑えて微笑みを作る。
「……え、ええ。とても、こう、野性味溢れる深いお味ですこと、マダム……」
「あら、そう? ……あら、本当。毒草の配合を間違えたかしら、これ。おぞましいほどまずいわね、失敗だわ」
ヴェノマさんは自分でも一口飲むなり、事もなげにそう言ってカップを置いた。私は一人、保とうとした世間体が空回りして、何とも言えない気まずさに包まれる。
「そ、そう! そうよね、失敗は誰にでもあるわ! ……それよりマダム、これを見てほしいの」
私は空気を変えるように、大袈裟な動作でポケットからあの「赤い革靴」を取り出し、テーブルの上に置いた。
「あら……」
ヴェノマさんの細い指先が、その煤けた革の表面をなぞる。彼女の瞳に、一瞬だけ鋭い光が宿った。
「懐かしいわね……。まだ、こんなものが残っていたの」
「ヴェノマ、そんなボロボロで汚れた靴のどこがいいんですかぁ? ピピンの綿の方がずっと綺麗ですよぅ」
ピピンの無邪気な問いかけを、ヴェノマさんは「ふふっ」と鼻で笑って受け流した。
「汚れているからこそ、価値があるのよ。……これをどこで拾ったのかしら、セシリア?」
私は洞窟の奥、ガラクタの山で見つけたことを正直に話した。うさぎのぬいぐるみが持っていたことも。彼女はふむ、と頷くと、またあの虚ろな、けれど確信に満ちた口調で「ちぐはぐな思い出」を語り始めた。
「……そうね。私はこの靴を履いて、『燃え盛る太陽の絨毯の上で、夜が明けるまで一度も止まらずに踊り続けた』わ。ステップを一つ踏むたびに、足元から溶けた金が溢れ出して、城の地下を黄金で満たしていった……。ああ、あの時の熱さが、まだこの爪先に残っている気がするわ」
「太陽の上で……踊る?」
リアムの「星のサラダ」に続き、今度は「太陽のダンス」。
どれも支離滅裂なのに、今のこの城の煌びやかさを見れば、それがただの妄想だとは言い切れない説得力があった。
「次へのヒントね……!」
私は拳を握り、意気込んだ。
太陽の絨毯、そして足元から溢れる黄金。それはきっと、あの洞窟で見た「黄金の山」や、まだ見ぬ城の深部へと繋がっているはず。
(アルカード様が戻る前に、この靴が指し示す『ステージ』を見つけ出さなきゃ)
私はマダムにお礼を言うと、ピピンの手を引いて、香ばしすぎる苦味の残る厨房を後にした。




