表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/69

苦いお茶会

差し出されたカップを口にした瞬間、私の表情は凍りついた。


(……に、苦い。いえ、これは苦いというレベルを超えているわ……!)


「うえぇぇ、まずーい! ヴェノマ、これお花の根っこの泥で作ったんですかぁ?」


ピピンは素直すぎるほど正直に、べーっと舌を出して顔をしかめた。聖女として、そして客としての礼儀を重んじる私は、必死に頬の痙攣を抑えて微笑みを作る。


「……え、ええ。とても、こう、野性味溢れる深いお味ですこと、マダム……」


「あら、そう? ……あら、本当。毒草の配合を間違えたかしら、これ。おぞましいほどまずいわね、失敗だわ」


ヴェノマさんは自分でも一口飲むなり、事もなげにそう言ってカップを置いた。私は一人、保とうとした世間体が空回りして、何とも言えない気まずさに包まれる。


「そ、そう! そうよね、失敗は誰にでもあるわ! ……それよりマダム、これを見てほしいの」


私は空気を変えるように、大袈裟な動作でポケットからあの「赤い革靴」を取り出し、テーブルの上に置いた。


「あら……」


ヴェノマさんの細い指先が、その煤けた革の表面をなぞる。彼女の瞳に、一瞬だけ鋭い光が宿った。


「懐かしいわね……。まだ、こんなものが残っていたの」


「ヴェノマ、そんなボロボロで汚れた靴のどこがいいんですかぁ? ピピンの綿の方がずっと綺麗ですよぅ」


ピピンの無邪気な問いかけを、ヴェノマさんは「ふふっ」と鼻で笑って受け流した。


「汚れているからこそ、価値があるのよ。……これをどこで拾ったのかしら、セシリア?」


私は洞窟の奥、ガラクタの山で見つけたことを正直に話した。うさぎのぬいぐるみが持っていたことも。彼女はふむ、と頷くと、またあの虚ろな、けれど確信に満ちた口調で「ちぐはぐな思い出」を語り始めた。


「……そうね。私はこの靴を履いて、『燃え盛る太陽の絨毯の上で、夜が明けるまで一度も止まらずに踊り続けた』わ。ステップを一つ踏むたびに、足元から溶けた金が溢れ出して、城の地下を黄金で満たしていった……。ああ、あの時の熱さが、まだこの爪先に残っている気がするわ」


「太陽の上で……踊る?」


リアムの「星のサラダ」に続き、今度は「太陽のダンス」。

どれも支離滅裂なのに、今のこの城の煌びやかさを見れば、それがただの妄想だとは言い切れない説得力があった。


「次へのヒントね……!」


私は拳を握り、意気込んだ。

太陽の絨毯、そして足元から溢れる黄金。それはきっと、あの洞窟で見た「黄金の山」や、まだ見ぬ城の深部へと繋がっているはず。


(アルカード様が戻る前に、この靴が指し示す『ステージ』を見つけ出さなきゃ)


私はマダムにお礼を言うと、ピピンの手を引いて、香ばしすぎる苦味の残る厨房を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ