甘いデザート
「お嬢様、お嬢様……! お願いです、戻ってきてください!」
不意に、硝子ドームの外から必死な声が響いたわ。見れば、私の幼馴染で教団騎士のレオが、ボロボロの姿で硝子を叩いている。彼の後ろには武装した騎士団が控え、何やら物騒な魔法陣を展開しているみたい。
「まあ、アルカード様。見て、あの方たち……。私たちの仲を祝して、派手な打ち上げ花火を準備してくれているのかしら? レオったら、あんなに顔を真っ赤にして叫んで……きっと、私の幸せを心から喜んでくれているのね」
レオが放った「正気を取り戻す聖光弾」が、ドームに当たって美しい七色の火花を散らす。
私にはそれが、祝福のコンフェッティ(紙吹雪)にしか見えなかった。
「……君の友人は、随分と情熱的だね。少し騒がしいが、愛の障害としては悪くないスパイスだ」
アルカード様は眉一つ動かさず、優雅な所作でナプキンを置き、私の手を取った。彼の指先は氷のように冷たいのに、触れられた場所から熱い毒が回っていく。
「さあ、デザートにしよう。今日を記念する、特別な一品だ」
運ばれてきたのは、淡く発光する銀色のケーキ。
とても美しい。
私がそっと一口食べる。
美味しくて止まらない。また一口……。
どうしてだろう、幼い頃の家族との思い出や、大切にしていた宝物の記憶が、パチンと弾けて消えていくような感覚…………とても素敵。
『こんなに生きてる心地と、心の中が死んでる心地の両方を味わえるなんて』
「……不思議。このケーキ、食べるたびに心が軽くなっていくわ。昨日まで何に悩んでいたのか、もう思い出せないの」
「それでいいんだ。君を縛る過去も、退屈な道徳も、すべて私が食べてあげよう」
アルカード様は、まるで宝物に触れるような手つきで私の髪を耳にかけ、そのまま首筋に冷ややかな吐息を吹きかけた。
「私を、ひざまずかせて……」
私が熱っぽい吐息とともに呟くと、彼は立ち上がり、跪く私を深い夜のような瞳で見下ろした。その仕草はどこまでも紳士的で、まるで女神を崇める信者のよう。
「愛しているよ。君を壊し、再構築し、私の望むままの『空っぽの器』に仕立て上げること。……それが私の愛の証明だ」
『私が壊れていく。なのに、それがとても心地よい……』
外ではレオたちが絶叫しながら、アルカード様の召喚した「美しき悪夢」に飲み込まれていく。その悲鳴さえ、私たちの愛の誓いを彩るバックグラウンドミュージックに過ぎない。
「さあ、最後の一口だ。これを食べれば、君はもう『人間』という不自由な生き物ではなくなる」
彼が銀のスプーンでケーキを掬い、私の唇に寄せる。
私はうっとりと目を閉じ、すべてを彼に預けるために、その甘い破滅を受け入れた。




