秘密の共有
「セシリア、かっこいい……」
隣でピピンが、見たこともないような真剣な眼差しで私を見上げて呟いた。いつもの「お遊び」ではなく、一人の人間として私を尊敬してくれたような、そんな温かい視線。
「……君のピアノの演奏は、とても素晴らしかったよ。あれが、この城の『眠り』を少しだけ揺らしたんだ」
白いうさぎのぬいぐるみはそう言い残し、小さな銀色の鍵を私に手渡した。あの冷たく閉ざされていた、書斎の鍵。
「この扉は出口だ。さあ、行きなさい」
導かれるままに扉を抜けると、眩い光に包まれ――気づけば私たちは、あの埃っぽいピピンの「秘密基地」に戻ってきていた。
「ふぇぇ……疲れましたぁ。セシリア、ピピンの綿がもうぺしゃんこですぅ」
「私もよ。でも、無事に戻れてよかったわ」
いつ通りの道を通り、庭園へ向かう。
泥だらけのドレスと、綿が飛び出しそうなピピン。私たちが顔を見合わせて笑い合っていると、庭園の入り口で鏡のような瞳をしたミレーヌが待ち構えていた。
「あら、二人とも。昼食の用意ができてい……って、その格好は何!? 淑女ともあろう方が、泥遊びなんて。すぐに汚れを落としてきなさい!」
ミレーヌに急かされ、私は自室のクローゼットの最奥に、持ち帰った「証拠品」と「銀の鍵」を素早く隠した。
その後、ピピンと一緒に広大な大理石の浴場へ。
「ねえ、あの宝箱を持ち上げた時、セシリアの顔、すっごく必死でしたよねぇ!」
「もう、笑わないで。ピピンこそ、小石をぶつけて遊んでたじゃない」
湯船に浸かりながら、私たちはあのアトラクションのような迷宮の思い出を、まるで楽しい冒険譚のように語り合った。湯気に包まれながら、私はピピンの小さな手を取り、心から告げた。
「……ピピン。ついてきてくれて、ありがとう。あなたがいてくれて、本当に心強かったわ」
「えへへ、ピピンもですよぅ! セシリアと一緒にいると、なんだかピカピカした気持ちになれるんですぅ!」
昼食のテーブルに戻ると、そこには朝と変わらぬ、優雅で残酷なほど美しい光景が広がっていた。アルカード様が、ワイングラスを傾けながら私を迎え入れる。
「おかえり、セシリア。ずいぶん長くピピンと遊んでいたようだが、何をしていたんだい?」
その問いに一瞬心臓が跳ねたけれど、私は微笑みを崩さなかった。
「ええ……その……それよりアルカード様、お体の具合はいかが? 演奏のあと、少しお疲れのようだったから心配していたのよ」
「……ああ、君の優しさが何よりの薬だよ。今はもう、これ以上ないほど気分がいい」
アルカード様は満足げに頷き、身を乗り出して私を見つめた。
「それで、セシリア。この城の暮らしはどうだい? 気に入ってくれたかな」
「ええ。とても賑やかで、楽しい人たちばかり。……私、このお城がとっても気に入ったわ、アルカード様」
嘘ではない。マダムも、リアムも、ミレーヌも、そしてピピンも。彼らの「欠落」を知るたびに、私はこの城の謎を解き明かしたいという、抗いがたい情熱に燃えていたから。
私のポケットの中には、まだあの冷たい「鍵」の感触が残っている。
アルカード様、あなたが私を「最高傑作」と呼ぶのなら。
私はあなたの最も美しい「毒」になって、この城の真実を暴いてみせるわ。




