道なき道
(……恐怖に震えている暇なんて、もうないわ。この城が『解けるパズル』だというのなら、私がすべてを暴いてみせる)
手元の糸がふっつりと途切れた瞬間、一瞬だけ心臓が跳ねた。命綱を失うことは、この暗闇では死を意味する。けれど、隣から「はい、これですよぅ」とのんきな声がした。
「……ピピン? どうしてあなたが糸を持っているの?」
「セシリアが大事そうに持ってたから、欲しがってるかと思って! 汚れちゃうといけないから、ピピンの体の中に入れておきましたぁ!」
ピピンが自分のお腹の縫い目を少し開けて見せると、そこには私の毛糸玉が綿と一緒にぎゅうぎゅうに詰まっていた。
「……体の中に? ええ、そう……便利ね、それ。助かったわ(深く考えるのはやめましょう)」
謎の解釈で納得し、私たちはさらに奥へと進んだ。すると、再び道が二つに分かれ、その分かれ道の中央に、血のように赤い文字が刻まれた石板が立っていた。
『右の道は、お前が失ったすべての宝が眠る場所。左の道は、お前が犯したすべての罪を忘れる場所。問いだ。お前が真に「自分自身」であり続けたいなら、どちらの地獄を歩むべきか?』
「お宝か、忘却か……。セシリア、どっちがいいと思いますかぁ?」
ピピンの問いを聞きながら、私の脳裏にある人物の顔が浮かんだ。かつて私を導いてくれた老枢機卿。彼は、迷える私にこう説いたことがあった。
『いいかい、セシリア。一見、どちらも魅力的な道に見えるだろう。だがこれは哲学的な罠なんだ。宝――つまり過去の栄光に固執すれば、足は止まり、前へは進めない。罪――過去の過ちを忘れれば、人は成長を捨て、ただの空虚な人形になってしまう。提示された道を選んではいけない。自ら、道を見つけ出すんだ』
(そうよ。提示された選択肢そのものが、私を試す『檻』なのね……!)
私は照明魔法の光を強め、右でも左でもない、石板の周囲をくまなく照らした。
すると、石板の真上の天井付近から、微かに空気が動く「風」を感じた。
「ピピン、石板を足場にするわよ。支えていてね」
「気をつけてくださいねっ! セシリアが落ちたら、ピピンの綿が潰れちゃいますぅ!」
私は石板によじ登り、壁の隙間に積み重なっていた小石を一つずつ丁寧に取り除いた。すると、そこには大人一人がようやく通れるほどの、狭い、けれど確かな空洞が隠されていた。
「ピピン、見つけたわよ! これが私たちの進むべき道だわ!」
「わぁー! さすがセシリア! 提示されない道を見つけるなんて、最高にひねくれて……いえ、賢いですぅ!」
私はピピンをひょいと抱え上げ、屈みながらその狭い穴へと這い入った。
「セシリア、本当に大丈夫ですかぁ? ここ、行き止まりだったらお腹が空いて死んじゃいますよぅ」
「大丈夫よ、確信があるわ。……誰だか知らないけど、これを用意した『地獄』には、もう付き合ってあげないんだから」
暗く狭い通路の先で、私の瞳はかつてないほど鋭く輝いていた。恐怖は、確かな「攻略の意志」へと書き換えられていた。




