問いかける像
洞窟の奥へと進むほど、空気は冷たく、そして重くなっていく。
命綱の毛糸はもう随分と細くなっていた。不意に開けた場所に出ると、そこには洞窟の荒々しい岩肌とは対照的な、整えられた石造りの部屋があった。
正面には、見上げるほど巨大な、異形の神を模したような像。
その存在感に、私の本能が警鐘を鳴らす。
「……嫌な予感がするわ。ねえ、ピピン、一度戻って――」
相談しようと隣を見ると、そこには誰もいなかった。
「……え?」
「ららら〜、お宝はあるかな〜♪」
ピピンは私の懸念などどこ吹く風で、鼻歌を歌いながら既に部屋の中央まで歩いていってしまっている。
「ちょっと! 待ちなさい、ピピン!」
慌てて彼女を連れ戻そうと部屋に踏み込んだ、その瞬間。
ズガァァァン!!
背後で、逃げ場を塞ぐように重厚な石の扉が勢いよく閉じられた。
「ひゃああっ! びっくりしたぁ! セシリア、今の音聞きましたかぁ?」
「的中しちゃったわよ……。ピピン、勝手に動かないでって言ったのに」
私は塞がった扉を見つめ、溜息をついた。部屋にはその巨大な像以外、武器も道具も、文字通り何一つ転がっていない。
すると、部屋全体を震わせるような、地響きに似た声が響き渡った。像の虚ろな目が、怪しく赤く光り出す。
『――この部屋にあるもので、私を殺せるものを示せ。さすれば道は開かれん』
「また問題なの……? アルカード様はこのお城をクイズ会場にでも作り替えたのかしら」
ピピンが「うーん、うーん」と唸りながら像をペシペシ叩いているけれど、当然何も起きない。
「セシリア、これどうすればいいんですかぁ? ピピン、パンチしても手が痛いだけですぅ」
「……少し黙ってて、ピピン。じっくり考えさせて」
私は宝箱の時の教訓を思い出し、一度その場に座り込んだ。注意深く、この部屋の「違和感」を探る。
何もない部屋。音を立てれば響き渡る空間。
ピピンも私の隣で、短い手足を組んで「うーん」と同じポーズで考え込んでいる。
(像を殺せるもの……。この部屋にあるものだけで……)
像が声を出すたびに、部屋の空気が震える。
逆に言えば、この場所で唯一「存在している」のに「形がない」ものは――。
私は立ち上がり、像の燃えるような瞳を見据えて、はっきりと答えた。
「答えは――『沈黙』よ!」
私がその言葉を発した直後、部屋から一切の音が消えた。
ピピンの鼻息さえも聞こえないような完全な静寂。
すると、像の目がさらに強く光り、その巨大な胴体が音もなく左右に割れ、奥へと続く隠し通路が現れた。
「わぁー! セシリア、また正解です! 凄いです、天才聖女様ですぅ!」
ピピンが飛び跳ねて喜ぶけれど、私はその通路の先に漂う、さらに深い闇を見つめていた。
「『沈黙』が私を殺す……。なんだか、嫌な答えね」
私は再び照明魔法を灯し、ピピンと共に新たな闇へと足を踏み入れた。




