沈黙の破裂音
最後の音が消え、ガラス張りの部屋に再び静寂が訪れる。
余韻に浸るようにうっとりと目を閉じているピピンとアルカード様。
私はそっと二人を見つめ、声をかけようとした――その時。
ドォンッ!!
城のどこか深くから、全てを叩き割るような、凄まじい破壊音が一度だけ響き渡った。
あまりの衝撃に、私の指先はピアノの鍵盤を強く叩きつけ、クラスター音を散らしてしまう。
「ひゃああっ! わぁー! セシリア、とっても良かったですよぅ! でも、最後のは何ですかぁ?」
ピピンがパチリと目を開け、無邪気に首を傾げる。
アルカード様もまた、不思議そうに首を傾げている。
「素晴らしい演奏だったよ、セシリア。だが、今の音は一体……?」
二人に、先ほどの破壊音について尋ねようとした。
けれど、アルカード様とピピンは目を合わせ、困惑したように互いの顔を見つめ合うばかりで、結局何も答えなかった。
まるで、あの破壊音など最初から存在しなかったかのように。
「……セシリアの演奏、本当に良かったね!」
「ええ、とても癒やされました!」
二人はそのまま、あの音が聞こえなかったかのように、私の演奏の感想を言い始めた。
けれど、私の意識はただ一点、あの音が響いた城の奥深くを見つめていた。
「セシリア様ぁ? セシリア様ってばぁ!」
ピピンが何度も私を呼ぶ。その声で、私はようやく意識を現実に引き戻された。
「どうしたの?」
「ピピン、なんだか眠くなってきちゃいましたぁ。じゃあ、おやすみなさい、セシリア!」
ピピンはとことことあくびをしながら、ガラスのフロアを去っていった。
アルカード様もまた、私の額にそっとキスを落とした。
「私も少し、疲れを感じたようだ。ありがとう、セシリア。君の音楽は、私を深く癒やしてくれたよ。……私も少し休むとしよう」
「アルカード様。一つ、お尋ねしてもよろしいかしら? ……その……書斎は、どちらにあるのですか?」
アルカード様は、私の問いに快く微笑んだ。
そして、何でもないことのように右手を差し向けた。
「書斎? ああ、あちらの扉の先だよ」
「……え?」
アルカード様が指差した先を見て、私は息を呑んだ。
さっきまで、そこには何もないガラスの壁しかなかったはずだ。
それなのに、今はそこに、重厚な木製の扉が、まるで最初からそこにあったかのように現れている。
周囲を見渡すと、ガラスのフロアのあちこちが、本来の荘厳な城の内装へと戻り始めていた。
透き通った柱には石の彫刻が、ガラスの壁には色褪せたタペストリーが、見る見るうちに姿を現す。
私のピアノの演奏が、城の魔法を一時的に解き放ったのだとしたら。
あの破壊音は……一体、何が、どこで。
私は、開かれた書斎の扉を見つめ、静かに立ち上がった。




