素敵なレストラン
「まあ、アルカード様。このレストラン、まるで星空を閉じ込めたみたいに素敵……」
私が案内されたのは、湖の中央に浮かぶ、硝子張りの美しい円形ドームだった。
天井からは数千ものクリスタルが吊り下げられ、ゆらゆらと光り輝いている。……けれど、そのクリスタルの中によく見ると、小さな小さな「人間の記憶」のような映像が、苦悶の表情と共に閉じ込められて揺れている。
「君のために、この街で一番美しい『輝き』を集めたんだ。……さあ、座って」
彼が引いてくれた椅子は、純白の薔薇の蔓で編まれていた。
座ると、薔薇の棘がチクリとドレスを突き抜け、肌を掠める。でも、その微かな痛みのおかげで、彼が隣にいる実感がより鮮明に湧いてくる。
『無垢さをすべて、あなたに失わされてる。でもそれは強制ではなく、魅惑のような引き寄せ』
テーブルに運ばれてきたのは、淡い桃色のシャンパン。
でも、グラスの中で弾ける泡は、まるで小さな叫び声を上げるようにパチパチと不規則な音を立てている。
「アルカード様、このお酒……不思議な音がするのね? まるで、誰かが遠くで愛を囁いているみたい」
「それは、この酒の精霊たちが君の美しさに怯えている音だよ」
彼は優しく微笑み、私の頬を指先でなぞった。
その視線に見つめられるたび、私の心はうつろになってしまう。
ドームの外では、美しい青い鳥たちが次々と硝子に激突しては、音もなく青い花びらへと変わって散っていく。
客観的に見れば、それは不吉な予兆でしかない。
でも、今の私には、それさえも彼が用意してくれた特別な演出――私を喜ばせるための、儚い命の散り際に見えていた。
「あなただけが、私を感じさせてくれる。……他の人の声なんて、もう風が吹いているのと変わらないわ」
ふと見ると、隣のテーブルで給仕が彫像のように固まったまま、瞳からさらさらと砂を流している。
でも私は、それを「最先端の芸術的なパフォーマンス」だと思い込み、うっとりと見つめ返した。
こんなに生きてる心地と、心の中が死んでる心地の両方を味わえるなんて。
私の中の悪魔が、彼の甘い言葉に誘われて、ゆっくりと目を醒ましていく。
「……壊して。私が私でなくなるほど、強く、あなたに染めて」
窓の外では、月が二つに割れ、空が紫色に濁り始めていた。
世界が少しずつ歪んでいく。なのに、それがたまらなく心地よかった。




